2022年2月20日 4面
山口県宇部市に昨年8月、誰でも自由に訪れて交流できる子育て拠点が開設され、注目を集めている。子どもの成長と発達を見守る子育てコミュニティー、一般社団法人「キッズラップ」(金子淳子代表理事)による取り組みだ。先月、公明党社会的孤立防止対策本部の谷あい正明事務局長(参院議員、参院選予定候補=比例区)が現場を視察した。
「こんにちはー!」。子どもたちが元気よく走り込んでくる。今日は地域の栄養士さんのお菓子作り教室。初めてクッキー作りに挑む子も。いろんな形のクッキーが出来上がり、子どもたちの笑顔がはじけた――。
■食事の提供や学習支援も
宇部市の中心市街地に開設された子育て拠点は、2階建てで、延べ床面積約300平方メートル。1階の広々とした空間にはカフェや、すべり台のある遊び場、ミニ図書館などがあり、子どもも大人も楽しく過ごせる。2階には、子どもたちが使用する学習室のほかに、調理や食事をするためのカウンターキッチンが設置されている。
平日の放課後、子どもたちはここで、宿題をしたり遊んだりして過ごす。無料の食事も提供される。
木曜日には、大学生ボランティアが小中学生に勉強を教える学習支援が行われている。「子どもたちの成長を間近に感じられて、とてもやりがいがあります」と教育学部4年生の舛富惟織さんは語る。
キッズラップという名前には、地域で協力して子どもたちを包み込む(ラップする)ように育てていきたいという思いが込められている。
スタッフには、市内で活動するミュージシャンなど多様な人生経験を持った大人が参加。イベントも活発に開催しており、地域の大学生が3Dプリンターの使い方を教えたり、大手航空会社の客室乗務員が仕事の内容などを紹介したりする。さまざまな出会いと体験を通して、将来の自立に向けて生き抜く力を培う狙いがある。
一方、子どもの保護者らにとっては貴重な交流の場でもある。毎週木曜日の午前には、子どもの成長や子育ての悩みを互いに共有し合いながら親睦を深めている。先日、初めてキッズラップを訪れた女性は、「コロナ禍でずっと家にいる。交流できてありがたい」と話していた。
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金子代表理事は、市内で小児科医院を開業する医師でもある。外来受診に対応する中で、子どもの病気の原因は学校や家庭など社会環境にもあると感じていた。特に外来受診すら困難な母親の産後うつや虐待、ネグレクトなどの問題は子どもへの影響が大きいと思った。「子育てを親や家庭だけの責任にせず、地域や社会全体で見守ることが大事ではないか」
■安心できる居場所に
金子さんは、子どもたちが楽しむことができ、地域の人同士がつながりを持てる機会をつくろうと、2005年に小児科医院の敷地内で小さな祭りを開催。17年には、祭りでつながった仲間と共に、子ども食堂「みんにゃ食堂」を始めた。規模は年々拡大し、毎回300人以上が参加するまでに。コロナ禍でも、弁当配布に切り替えるなどして、困窮家庭を支えた。
その一方で金子さんは、食事の提供だけでは一時的な支援にとどまり、子どもが抱える複合的な課題の本質的な解決につながらないと感じるようになった。そこで、これまで以上に長い時間、子どもが安心して過ごせる居場所を提供し、より充実した学習支援やさまざまな出会いがある拠点を築こうと、昨年5月にキッズラップを立ち上げた。
視察を終えた谷あい氏は、「子どもの孤独・孤立対策は大変重要な課題だ。解決に向けて活動を下支えしていく」と語った。
■市、地方創生で後押し
宇部市もこうした活動を後押しする。同市は現在、地方創生の総合戦略で「結婚・妊娠・出産・子育ての希望をかなえ、子どもの夢を育む教育を推進する」との基本目標を掲げ、新生児が誕生した家庭に、育児用品が入った「赤ちゃん誕生おめでとう箱」を贈るなど、妊婦や子育て世代をサポートしている。
また、地域ぐるみで子どもを育てる体制の整備へ、子ども食堂の開設を支援。運営体制や会場について相談を受けるほか、既に活動をしている団体には、市が分配する食料品の情報提供や団体同士をつなぐネットワークの強化を行い、子どもの居場所づくりに力を入れている。市は、24年度までに子ども食堂を含む24カ所の居場所の開設をめざしている。
■人との関わりが自立の力培う/一般社団法人「キッズラップ」代表理事 金子淳子さん
幼少期までに親子の間でうまく愛着が形成できなかったり、虐待などトラウマ(心的外傷)となる体験があると、安定した自尊感情が育まれず、不登校や非行、ギャンブルや薬物などの依存状態に陥りやすいといわれています。
一方で、学びを身に付けることで過去のつらい体験を頭の中で整理し、言語化したり、人との関わりの中で無条件に愛され大切にされる経験を積み重ねたりすることで、人の役に立っているという気持ちや自尊感情が高まり、自立するための力が培われます。
子どもたちが将来の夢や希望を思い描き、幸せな人生を歩むためには、さまざまな年代の人たちと交流する場がとても重要であると考えます。みんなが、みんなの子どもを育てる社会をめざし、今後も地域づくりに取り組んでいきます。