谷合正明議員が4月6日、党地球温暖化対策推進本部 事務局長として菅総理に中間提言を行いました。
以下、提言の内容を転載します。
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2021年4月6日
内閣総理大臣 菅 義偉 殿
公明党 地球温暖化対策推進本部
本 部 長 石井 啓一
事務局長 谷合 正明
2050 年脱炭素社会、カーボンニュートラルの実現に向けた中間提言 近年、気候変動による自然災害が激甚化・頻発化している。今後も自然 災害の更なる増加が予測されていることから、こうした気候変動や地球温 暖化の原因である温室効果ガス(GHG)の排出削減に取り組むことが世界 共通の課題となっている。
そこで、公明党は、昨年の通常国会における衆参両院の代表質問におい て、「2050 年を視野に温室効果ガス、二酸化炭素の排出実質ゼロ」を政府 に提案した。また、菅政権の発足に伴い、新たに交わした自公連立政権合 意には、公明党の提案により、「持続可能で強靱な脱炭素社会を構築する」 など、気候変動対策を強力に進める方針が反映された。こうした公明党の 取り組み等により、菅総理は昨年 10 月、「2050 年までに、温室効果ガスの 排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を めざす」ことを宣言した。公明党としても、昨年 11 月に「地球温暖化対策 推進本部」を設置し、有識者や諸団体等からのヒアリングを重ねる中で、 産業界の技術革新や国民運動の推進等について議論を進めている。
他方、脱炭素社会の構築に向けて、120 ヶ国以上が「2050 年カーボンニ ュートラル」を宣言するとともに、先進国等では 2030 年までの排出削減目 標の引き上げを進めている。今後、日米首脳会談、首脳気候サミット、G7 サミットなどが開催され、世界的な流れが加速する中、我が国は世界共通 の利益である気候変動対策における国際連携を一層促すとともに、世界の 議論をリードするような 2030 年度目標を打ち出すべきである。
目標達成に向けては、政府・産業界・地方自治体・国民などあらゆる主体 がカーボンニュートラルを我が事として捉えながら、全ての社会・経済シ ステムを洗い直し、オールジャパンで排出削減に取り組まなければならな い。そのためには、再生可能エネルギーの主力電源化や、国民運動の推進 に向けた施策強化、ゼロカーボンシティへの支援、ファイナンスにおける 環境整備などに取り組むべきである。また、排出削減を実現するに当たっ ては、エネルギー自給率の向上も同時に達成する観点から、化石燃料の調 達を減らし、再生可能エネルギーの導入拡大を最優先に進め、成果を地域 に還元する視点も重要となる。
こうした考えの下に、中間提言を取りまとめた。政府におかれては、我 が党の提言を踏まえ、一日も早い脱炭素社会を実現するための施策の抜本 的強化に向けた検討を進められることを強く要請する。
1.2050 年脱炭素社会を具体化する 2030 年度の GHG 削減目標の改定
世界は今、気候危機と呼ぶべき状況に直面しており、パリ協定のもと、 GHG の排出削減に取り組むことが世界共通の課題となっている。気候変 動に具体的な対策をとることは SDGs(持続可能な開発目標)の目標でも ある。
我が国としても、昨年 10 月に「2050 年カーボンニュートラル」を表明 したものの、世界ではすでに 124 ヶ国 1 地域が宣言するなど、今や標準的 な指標となりつつある。特に、EU は、7年間の予算で総事業費約 70 兆円 を「グリーンリカバリー」に投入するとともに、2030 年に少なくとも 55% の GHG 削減を打ち出している。米国においても、パリ協定への復帰とそ の履行を裏付けるように、4 年間で約 218 兆円をグリーン分野に投資する と発表するとともに、今月下旬の首脳気候サミットに向けて野心的な削減 目標の検討を進めている。今や世界一位の排出国となった中国は、2030 年 までに二酸化炭素(CO₂)排出ピークアウト、2060 年までにカーボンニュ ートラル実現を目指すことを表明している。また、昨年 12 月に行われた気 候野心サミットでは、参加国の半数以上が 2030 年までの削減目標の引き 上げを表明した。我が国はイノベーション協力を始め、各国と緊密に連携 していくとともに、実効的な温暖化対策を促していく必要がある。
こうした世界的潮流を踏まえ、これまで 6 年連続で GHG 削減を着実に 進めてきた我が国は、2050 年目標を具体化するため、現行の 2013 年度比 26%削減目標を大幅に引き上げるべきである。 また、この目標を秋の第 26 回国連気候変動枠組み条約締約国会議 (COP26)を待たずして打ち出し、世界の脱炭素化の議論に積極的に貢献 すべきである。
2.再生可能エネルギーの主力電源化の早期実現等
GHG 排出の約 85%をエネルギー起源の CO₂が占めていることから、電 力部門の脱炭素化が我が国の最重要課題である。そのカギを握るのは再エ ネの最大限の導入である。太陽光発電や、着床式洋上風力、地域資源を活 用する水力や地熱、バイオマス発電などの導入を加速すべきである。
他方で、再エネには調整電源の確保、送電線の制約、地元地域との調整 といった課題がある。そのため、再エネが優先的に送電線に接続できるよ うな制度の見直しや、現在審議中の地球温暖化対策推進法改正案の早期成 立による周辺環境との調和、需給バランス調整のための蓄電池の大量導入 や再エネ余剰電源を活用した水素製造・利用等に向けた技術革新、港湾を 活用した水素・アンモニア等の次世代エネルギーの拠点(カーボンニュー トラルポート)の整備などに取り組むべきである。
これらの取り組みを最大限進めることで、2030 年の再エネの電源構成比率については、より高い目標設定も可能である。現在検討が進められてい る次期エネルギー基本計画の改定に向けた議論を進める中で、2030 年の再 エネ比率を大幅に引き上げるなど再エネの主力電源化をできるだけ早期に 実現すべきである。
2050 年脱炭素社会を実現するためには、石炭火力政策について段階的な 対策を講ずることも重要である。 そのため、省エネ法の改正等による新たな規制的措置の導入とともに、 地域経済や産業競争力への影響に留意しつつ、補助金による支援など早期 退出を誘導するための仕組み等を通じて 2030 年に向けた非効率石炭火力 発電のフェードアウトを着実に実現すべきである。
また、相手国の脱炭素社会への移行を支援するため、我が国の石炭火力 発電の輸出を原則停止するとともに、我が国の誇る再エネ技術やバイオマ ス・アンモニア混焼技術等の輸出を積極的に行うべきである。
あわせて、徹底した省エネや再エネの主力電源化に向けた取り組みを通 じて、原子力発電の依存度を着実に低減しつつ、将来的に原発に依存しな い社会をめざすべきである。
3.イノベーションによる脱炭素社会の実現
2050 年カーボンニュートラルを実現するため、昨年 12 月、「2050 年カ ーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が策定された。「グリーン成 長戦略」では、成長が期待される 14 の重要分野ごとに実行計画を策定し、 高い目標を掲げ、あらゆる政策を総動員することにしている。水素、浮体 式洋上風力、カーボンリサイクル、蓄電池など、脱炭素の鍵を握っている 期待分野はいくつもある。2050 年カーボンニュートラルの実現に向けては、 地球温暖化への対応をコストではなく成長の機会と捉えることが重要なた め、国として可能な限り具体的な見通しを示し、民間企業が大胆な投資に チャレンジできる環境を作っていくことが重要である。
脱炭素化に向けて鍵を握るそれぞれの分野で高い目標を設定し、2 兆円 の基金を活用して、予算、税制、規制改革、ESG 金融などあらゆる政策を 総動員していくべきである。
また、「『第2期復興・創生期間』以降における東日本大震災からの復興 の基本方針」に基づき設置される国際研究拠点での取り組みを通じて、福島県を我が国の再エネ普及のモデル地域として創成するなど、我が国の再 エネ普及やカーボンニュートラル実現を国家プロジェクトとして推進すべ きである。
4.国民運動の推進に向けた新たな消費者還元制度の創設・強化
国内の CO₂排出量の約6割は、住宅や移動などのライフスタイルに起因 している。国民一人当たりでは年間 7.6 トンの CO₂を排出(2017 年)して いるため、一人ひとりの行動変容やライフスタイルの転換が不可欠である。 3 月に内閣府が実施した「気候変動に関する世論調査」では、地球温暖化 への対策に取り組む企業の商品の購入やサービスの利用に取り組みたいと の回答が上位となっている。
こうした調査結果を踏まえ、国民の行動変容を強力に促すとともに、コ ロナ禍からの経済再生に向けた需要喚起を推進する観点から、CO₂排出量 削減に向けたライフスタイルの転換や、脱炭素化に貢献する商品を購入す る等の消費行動を行うなど、行動変容に取り組む国民に対するポイント還 元制度「グリーンポイント制度(仮称)」を創設すべきである。
また、住宅や自動車等のインフラは、長い期間にわたって活用されるこ とから、ZEH(ネット・エネルギー・ゼロ・ハウス)・断熱リフォーム・オ ール電化・電気自動車(EV)への切り替えなど、既存の技術でもすでに高 い脱炭素効果のある耐久消費財等の購入・導入を強力に支援すべきである。
5.ゼロカーボンシティへの包括的な支援制度の創設等
昨年 10 月の「2050 年カーボンニュートラル」の宣言以降、ゼロカーボ ンシティが急速に拡大していることから、こうした自治体が総力を挙げて 既存の技術を最大限活用するなど今から実現可能な具体策を実行すること が極めて重要である。
これらの対策を加速させるため、「ゼロカーボンシティ再エネ強化支援パ ッケージ」が政府の予算に盛り込まれているが、引き続き、より多くの自 治体がゼロカーボンシティを表明し、具体的な排出削減や地域経済の好循 環、レジリエンス向上を同時に実現できるよう、2030 年までの 10 年程度 を念頭に置いた地域の脱炭素化を進めるための基金など包括的な支援制度 を創設すべきである。あわせて、自治体等で再エネ導入に関する知見や人 材が不足していることから、再エネ事業の実施に関して知見を有する人材 の育成等を強力に進めるべきである。
また、地球温暖化など地球環境の変化による危機を克服するため、放置 された森林等における間伐や主伐後の再造林など適切な管理、地域資源で あるエリートツリー・早生樹の普及等を通じた生物多様性の保全、及びゼ ロカーボンや「カーボンマイナス」の実現に貢献する森林吸収源対策を強 力に推進するなど、総合的な森林環境保全整備を各自治体等と連携して取 り組むべきである。
6.経済と環境の好循環実現に向けたファイナンスにおける環境整備
足下の世界全体の ESG 投資は、総額 3,000 兆円までに拡大した。国内に おいても約 300 兆円と、3年で6倍程度増加している。こうしたカーボンニュートラルにも大きく貢献する国内外の資金が、高い脱炭素技術等を有 した日本企業の取り組みに活用されるような環境整備を進めることが極め て重要である。
とりわけ、国際的に再エネや省エネなど脱炭素化に向けた資金使途が多 様化したこと等により、環境への取り組みに特化した資金を調達するため に発行されるグリーンボンドも増加している。今後こうした資金提供が市 場の中で主流化できるよう、優良事例の創出・横展開を更に進めるととも に、将来の自立的な市場形成に向けて、グリーンボンドの発行に係る支援 を強力に推進すべきである。
他方、着実な低炭素化に向けた取り組みを行う際に必要な技術に対して 資金供給を行うトランジション・ファイナンスを促進していくことも必要 である。そのため、多排出産業などのトランジション投資の好事例創出に 取り組むとともに、各業種が着実に GHG 排出削減に取り組むためのロー ドマップを策定すべきである。
あわせて、地域金融機関を中心に、地域の再エネ資源を掘り起こすなど、 中小企業が積極的に再エネ等に投資できるような制度設計を進めるべきで ある。
また、こうしたファイナンスを更に進める観点から、企業が気候関連財 務情報を積極的に開示できるようなルール整備に取り組むべきである。
7.カーボンプライシングの検討について
環境に配慮しつつ経済回復をめざすグリーンリカバリーや、環境面で持 続的な経済活動に貢献する製品等か否かを分類・定義するタクソノミーな どの先進的な取り組みを踏まえると、気候変動対策が脱炭素産業の覇権争 いに直結するようになっている。特に、米欧では、炭素国境調整措置の検 討も精力的に進められている。こうした米欧の動向を踏まえつつ、我が国 としても、国益にかなうカーボンプライシングを検討する必要がある。
現在、政府においても検討が進められているが、カーボンプライシング は、我が国の産業競争力の低下や中小企業、国民への過度な負担を招かな いようにしつつ、あらゆる主体の CO₂削減努力などが報われるような視点 で検討すべきである。
また、炭素税や排出量取引などの仕組みに限らず、あらゆる選択肢を追 求しながら、2050 年カーボンニュートラルの実現に向けて、我が国の技術 革新や再エネの普及を後押しできるような仕組みを検討すべきである。
以 上