2021年4月21日 1面
同性同士の法律婚を認めないのは憲法に違反するとして北海道に住む同性カップルが国を相手に訴えていた裁判で、札幌地裁は先月、「法の下の平等」を定めた憲法14条に反するとの判断を示した【表参照】。今回の判決が政治や社会に問うものは何か。判決内容や問題の背景を解説するとともに、判決の意義や今後の課題について、早稲田大学法学学術院の棚村政行教授(弁護士)の見解を紹介する。
■(札幌地裁)認めないのは「憲法違反」/性的指向は人種、性別と同列
この裁判は2019年2月、道内の同性カップル3組が同性同士の結婚を認めていない民法や戸籍法の規定は憲法13、14、24条に違反するとして、国に損害賠償を求めたものだ。同様の訴訟は東京、名古屋、大阪、福岡の各地裁でも提起されており、札幌地裁の判決が同性婚に関する初の司法判断として注目された。
判決の冒頭では、男女平等の実現に主眼が置かれた24条について言及している。
憲法制定時、同性婚は許されないものと理解されていた歴史的背景を踏まえ、「異性婚について定めたものであり、同性婚について定めるものではない」とし、現行の婚姻制度が24条に違反しているとは言えないとした。
また、結婚や家族に関する個別規定を明記した24条2項については、具体的な制度の構築は国会の裁量に委ねられると指摘し、こうした24条の趣旨を踏まえると、「個人の尊重」を掲げる13条でも「同性婚を直接導き出すことは困難」と判断した。
一方、判決では「婚姻によって生じる法的効果」について言及し、戸籍によってその身分関係が公証され、身分に応じた権利義務を伴う法的地位が与えられると明記している。しかし、法律婚ではない同性カップルの場合は、税の配偶者控除や遺産相続が認められないほか、緊急時の病院での面会ができなかったり、賃貸住宅の契約などでも同性同士の入居を断られるケースが少なくない。
この点について判決は、「法の下の平等」をうたう14条に照らすと、同性愛者と異性愛者の違いは人の意思によって選択できない性的指向の違いでしかなく、「人種や性別と同列に扱うべき」と指摘。また、24条に照らして合憲としつつ「同性愛者の共同生活に対する一切の法的保護を否定する趣旨まで含んでいない」との見解を示した上で、「同性愛者が婚姻によって生じる法的利益の一部ですらも受けられないのは、合理的な根拠を欠いた差別的な取り扱いだ」として、14条への違反を認めた。
なお、国に対する計600万円の賠償請求は退けた。同性婚への理解が広がったのが比較的近年だったことを踏まえ、「国会が(違憲状態を)直ちに認識することは容易ではなかった」と結論付けた。
原告側は判決を不服として、先月末に控訴している。
■28カ国・地域で制度化/日本、国民の意識が肯定的に
今回の判決は、同性愛を巡る歴史的な経緯にも言及し、事実認定している。
同性愛は、1980年ごろまで「精神疾患で、治療すべきもの」と考えられ、民法でも結婚は男女の精神的・肉体的結合などと定義し、同性婚は当然認められないものとされてきた。
しかし、米精神医学会が73年に同性愛を精神障がいのリストから除外し、日本でも81年ごろから同性愛は精神疾患ではないとする医学的知見が広がり始める。
92年には、世界保健機関(WHO)が同性愛を疾病分類から削除。この頃から同性婚や登録パートナーシップ制度を導入する国が増え、同性婚を認めない法制度は憲法に違反するとの司法判断が示される国も出てきた。
世界では現在、28カ国・地域で同性婚が何らかの形で制度化されている。アジアでは台湾が初めて法制化しているが、主流は欧米だ。先進7カ国(G7)で同性婚の規定がないのは日本のみである。
国内では、同性カップルを公的に認定する「パートナーシップ制度」を設ける地方自治体が増えている。公営住宅への入居申請や公立病院における手術同意などを可能とするもので、2015年の東京都渋谷区を皮切りに、現在は約80の自治体で同様の制度が創設されている。
民間企業でも社内規定を見直し、同性のパートナーを「配偶者」とみなす事例が増えている。
同性婚に対する国民の意識も変化している。国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、同性カップルの結婚や何らかの社会保障を認めることを肯定的に捉える意見が15年は半数程度だったのに対し、18年は7割程度まで増加。一方で、60代以上の世代は否定的な意見も目立つ。
■公明、共生社会実現へ議論スタート
LGBTQなどと称される性的マイノリティー(少数者)に対する理解や支援を広げるため、公明党は党内に「性的指向と性自認に関するプロジェクトチーム」(PT、谷合正明座長=参院幹事長)を立ち上げ、当事者や有識者らと意見交換を重ねてきた。
先月には、同PTのもとに「同性婚検討ワーキングチーム」(WT、国重徹座長=衆院議員)を設置。党として同性婚を含む課題に取り組み、「誰一人取り残さない」共生社会の実現をめざす姿勢を示している。
今月15日に行われたWTなどの合同会議では、支援団体と同性婚のあり方を巡って意見を交わしたほか、当事者の声を聞いた。当事者の女性は「法的な保障がないため、入院など生活上の問題も生じている」と話し、「一日も早く安心して暮らせる社会をつくってほしい」と訴えた。
国重座長は「今回の判決で、同性カップルの法的保障に向けて具体的な検討を立法府に促した点は重い。当事者が抱える生きづらさや生活上の困難を謙虚に学び議論していく必要がある。同時に、性的マイノリティーへの真の理解が社会で広がるよう取り組みを進めたい」と述べている。
■人権守る画期的な司法判断/早稲田大学法学学術院 棚村政行教授
今回の判決は、裁判所が、少数であっても、同性カップルや性的マイノリティーの人権を守るべきものとして真摯に受け止めた結果であり、画期的な司法判断と言える。
象徴的なのは、同性愛者であることを理由に、婚姻によって生じる法的効果の一部さえも享受する法的手段を提供していない状態が、著しく不合理な差別に当たると認め、憲法14条に違反すると判断した点だ。
札幌地裁は、尋問を通して当事者の声に耳を傾けるとともに、原告・被告双方の主張に目を向けるなど丁寧な審理に徹していた。心から敬意を表したい。
一方で、残念な点もある。憲法24条で定める婚姻の自由を同性愛者に認めなかったことや、13条を根拠に同性婚という具体的な制度を求める権利を導くことはできないと判断した点だ。
それでも、24条に関して同性愛者の共同生活に対する法的保護を否定する趣旨までは含まれないとした点は注目すべきである。
同性婚を巡る訴訟は、札幌地裁以外に全国4カ所で起こされているが、今後の裁判の行方にも影響を与えるとみられる。国会や政府にも大きなインパクトをもたらすであろうことは間違いない。
今後、婚姻制度を同性カップルに広げるといった具体的な権利保障のあり方が議論になるだろうが、民法上の規定や社会保障、税法など多くの仕組みを整えることが求められる。
■問題解決へ政治は真摯に向き合え
この点で今回の判決は、立法府である国会での議論に委ねた格好であり、問題の解決に向けて、政治は真摯に向き合う必要がある。
同性カップルの社会的位置付け、同性婚の可否、性的マイノリティーなどの課題について、当事者の声に耳を傾けつつ真摯に議論を積み重ね、差別解消や権利擁護のための法整備や社会的支援の充実に努めることが求められる。
米国など先進的に取り組む国でも性的少数者が権利を訴えてから実際に認められるまでには長い年月がかかっている。今回の判決は、日本が国際的な取り組みに追い付くチャンスと捉えるべきだ。
何より、今回の判決は、司法判断の枠にとどまらず、国会や行政に加え、社会全体が性的マイノリティーの存在を認めた上で、誤解や偏見、無理解を改め、不当な差別を解消し、同じ社会の構成員として受け入れるという難しい課題に向き合う必要性を示していると考える。