2020年10月18日 1面
国際連合(国連)(メモ)は、24日で創設75周年を迎えます。国連の今後のあり方や国際社会に果たす日本の役割を巡り、今年7月末まで国連大使を務めた大阪大学の星野俊也教授と公明党の谷合正明国際委員長(参院幹事長)に語り合ってもらいました。
■(大使3年を振り返る)
■努力実った「休戦決議」 星野
■信頼広げた功績に敬意 谷合
谷合 国連大使としての勤務、お疲れさまでした。任期3年(2017年8月1日~20年7月31日)を振り返ってどうですか。
星野 公使参事官(06年8月~08年8月)に続いて二度目となった国連日本政府代表部の勤務は“危機に始まり、危機に終わる3年”でした。
というのも、国連本部がある米ニューヨークに赴任する当日、北朝鮮が弾道ミサイルを発射し、それが北海道上空を横切る事件が発生。一方、任期終盤の今年は新型コロナウイルスの世界的流行への対応に追われたからです。
谷合 激動する世界の中で国連は加盟各国の国益がぶつかり合う場でもあります。交渉の最前線では相当な苦労があったのではありませんか。
星野 私自身が努力したのは仲間づくりです。外交において国と国の関係は当然重要ですが、大使同士の個人的な信頼関係も大いに役立ちます。それが実を結んだ一例が、昨年12月に国連総会で全会一致で採択された「オリ・パラ休戦決議」です。
谷合 どういう内容ですか。
星野 東京五輪・パラリンピックの期間をはさみ、平和の祭典である大会の意義を踏まえ、全加盟国に休戦を求めるものです。古代オリンピックにルーツがある慣行で、現代では開催国が決議案を提起するのですが、何よりうれしかったのは声を掛けて回ると、日本を含め総勢186カ国まで共同提案国が膨らんだことです。
谷合 世界に信頼を広げた功績のたまものですね。改めて敬意を表します。
■(役割どう評価するか)
■課題多い世界に不可欠 星野
■途上国への関心高めた 谷合
星野 今月24日で創設75周年となる国連の役割を評価する上で欠かせない視点が、対話と協調と連帯による「多国間主義」です。今年9月の国連総会での一般討論演説で、菅義偉首相もその重要性を強調しました。
国連について私は「不完全だが不可欠な組織」と、よく言うのですが、課題が山積する世界の中で多国間協調の要の存在です。
谷合 私も同じ意見です。植民地支配から独立したアフリカやアジアの国々にとって初めて出て行く国際舞台が国連でした。そして置き去りにされがちな、こうした途上国に対し、世界の関心を高める役割を積極的に果たしてきたのが国連でした。
加盟国数は、当初の51から世界のほぼ全ての国に当たる193まで増えています。この点からも国連75年は多国間主義の強化の歩みであり、国連こそ多国間主義を最も体現する枠組みと言えるでしょう。
星野 国際社会の現状に対応するため、国連には絶えず改革が求められています。その第一が国際の平和と安全の維持に主要な責任を担う安全保障理事会の改革です。
谷合 安保理は、拒否権を持つ常任理事国5カ国(米国、英国、フランス、ロシア、中国)と、選挙により選出される非常任理事国10カ国で構成されますね。
星野 そうです。これまで米ロや米中の対立などを背景に、拒否権が行使され、安保理が機能不全に陥ったことが少なくありませんでした。
加えて安保理の構成は、常任理事国の数が創設当初のまま、非常任理事国も1965年に6カ国から10カ国に増えただけ。加盟国数が65年の118から193に増えているにもかかわらずです。
谷合 今年9月、常任理事国入りをめざす日本、ブラジル、ドイツ、インドからなるグループ「G4」が安保理改革に関する外相会合を開きました。公明党も政府を後押ししています。
星野 安保理改革の総論に反対できる国はないのですから、一刻も早く具体的な改革案を文書のテキストに落とし込んで交渉を始めることが求められます。ただ、全般に多国間主義への失望や自国中心の活動が広がっているのは残念です。
谷合 現状を変えていくには具体的な分野で多国間協調の実績を積み上げていくしかありません。公明党が促して日本政府が先進国の中でいち早く参加を表明した、新型コロナウイルスのワクチンを共同購入する国際枠組み「COVAXファシリティー」への期待は大きいです。
■(日本らしい貢献とは)
■核廃絶、SDGs主導を 星野
■官民の幅広い協力必要 谷合
谷合 日本人女性初の国連難民高等弁務官だった緒方貞子さんが亡くなり、今月22日で1年がたちます。
私が前職のNGO(非政府組織)職員としてアンゴラや、アフガニスタンの難民キャンプで活動していた際、各国から集う国連職員の誰もが緒方さんを慕っていました。国連強化に向けた日本の貢献策を考える上で人的貢献は外せません。
星野 私は緒方先生が大学教授だった頃のゼミ1期生です。国際政治の研究を志したのも、学者でありながら大使として実務に携わったのも先生の背中を追った結果です。先生は実に多くの後進を鼓舞しました。
谷合 外務省によると、国連関係機関で専門職職員として働く日本人は昨年12月末時点で912人おり、2025年までに1000人が目標です。日本人職員の増加自体が国連の活性化につながると思います。また、国連にとって、若い世代や市民社会との連携も欠かせません。
星野 もう一つ、日本らしい貢献策を挙げれば、世界のビジョンを提示し他国をリードすることです。具体的には、公明党が力を入れる、核兵器廃絶と、30年までに「誰一人取り残さない」という「人間の安全保障」の考えを反映した持続可能な開発目標(SDGs)実現を主導すべきです。
谷合 核兵器のない世界へ、唯一の戦争被爆国の日本は、核保有国と非保有国の溝を埋め、橋渡し役を担う責務があります。また、SDGsについては国と地方で積極的に取り上げています。ジェンダー(社会的性差)や貧困・格差、保健衛生、気候変動など、SDGsが掲げる課題克服の道は、そのままポストコロナ時代の羅針盤となります。
星野 SDGsの特徴として誤解しないでほしいのは途上国支援のみが目的ではなく、先進国の私たちの生活の変革も盛り込まれているという点です。また、SDGsに取り組む企業はCSR(企業の社会的責任)を超え、本業として成立させながら社会課題を解決するビジネスを展開することが重要という点です。
谷合 先日、国際貢献を30年以上続ける地方の中小企業を訪れ、ビジネスと国際貢献の好循環が醸成されていることに感銘しました。今後、SDGsにビジネスチャンスを見いだす企業が増えれば、大きな展開が期待できます。官民の裾野の広い協力が日本の課題であり、そのポテンシャル(潜在力)の高さが日本の強みでもあると思います。
「地球民族主義」を掲げる公明党は、国連を支え、共に国際社会の平和と発展に取り組みます!
ほしの・としや 1959年、群馬県生まれ。上智大学卒。学術修士(東京大学)。博士(国際公共政策、大阪大学)。専門は国際関係論、国連研究。日本国際問題研究所主任研究員、大阪大学教授、国連日本政府代表部公使参事官、大阪大学理事・副学長、国連日本政府代表部大使・次席常駐代表などを経て、2020年8月より現職。