2020年8月20日 3面
障がいのある人たちが農業分野で活躍し、生きがいや自信を持って賃金を得る「農福連携」。慢性的な人手不足に悩む農業分野の期待は大きく、従事者は年々増加している。新型コロナウイルス感染拡大の影響で仕事を失ったり、仕事量が減った障がい者を積極的に受け入れる農業者も出ている。現場の対応を追った。
■「今後も任せたい」
地域のつながりを生かした農福連携の試みが進む埼玉県秩父市の酒造業「秩父ファーマーズファクトリー」(深田和彦社長)。うだるような暑さの今月13日、同社の農場「兎田ワイナリー」のブドウ畑を訪ねた。
ワイン造りに不要な新芽や、つるのもぎ取り作業を行うのは、市内の障がい者就労支援施設「自立支援さくらファーム」を利用する20~50代の5人の男性。精神障がいなどのある人たちが、手際よく作業を進めていた。
彼らを7月から受け入れている深田社長は当初、障がい者の雇用に不安があったという。それぞれの障がい特性が分からないことやコミュニケーションが図れるかどうか心配だったからだ。
こうした懸念の解消へ、さくらファームでは世話役の支援員を必ず1人同行させることで、仕事に支障が出ないようにしている。「サポートする世話役が一緒にいるので安心。作業スピードも速く、今後も継続して仕事を任せたい」と、深田社長は評価する。
農作業に当たる内田信さん(55)は、「農業は充実して楽しい。これまでやってきた細かい作業の経験も生きる」とにこやかだ。他にも、ブドウ収穫時のかごの洗浄やワインのラベル張りなどにも携わる。
これまで同農場では、繁忙期になると地元のアルバイトなどで対応してきた。コロナ禍で人集めが難しくなった深田社長は、地元で付き合いのあるさくらファームの内田敏弘社長に相談。仕事量が減った障がい者の現状を聞き、協力を依頼した。「地域のために役立ちたいという思いもあった」(深田社長)。それぞれの思いが一致して速やかな農福連携につながった。
■JA、公社が支援 週3回の選別作業
北海道江別市の「てらしま農園」は、地元のJAや農業振興公社の支援を受けて、農福連携を進める。
キュウリやニンニクなどの栽培がピークを迎えた4月、同園の寺嶋大貴さん(40)は人手不足から臨時雇用を検討したが、コロナ禍で人集めが難航。新規就農の研修生時代に通った「道央農業振興公社」(北海道恵庭市)経由で、コロナの影響で職を失った障がい者を5月中旬から受け入れた。
「農作業がはかどり助かっている。一番の頼りだ」。寺嶋さんは障がい者の活躍をこう喜ぶ。現在、障がい者5人と世話役1人のチームが週3回程度、ニンニクの選別作業などに当たる。
障がい者を送り出す、就労支援施設「イクスクルー」(札幌市)は、コロナによって仕事を失った障がい者の仕事確保に奔走する中、新聞で農福連携を知り、JA北海道中央会に相談。同JAが農業振興公社と連携して、寺嶋さんとのマッチングにつながった。
「農福連携で活躍する障がい者は年々、着実に増えている」(農林水産省農村振興局)。福祉関係者の周知が進む一方で、農業関係者への周知は遅れ気味なのが現状だ。農水省は3月、福祉団体や農業団体、地方団体などが参加する「農福連携等応援コンソーシアム」を設立し、国民運動として周知・広報活動を強化する方針を示した。農業者に加え、地域住民の理解も促し、コロナ禍でも事業を加速させたい考えだ。
■公明、共生社会へ支援強化訴え
公明党は、誰もが活躍できる共生社会を進める観点から、農業を障がい者雇用に生かす農福連携の取り組みを推進してきた。
5月には、党農水部会(部会長=谷合正明参院幹事長)などが、江藤拓農水相に提出した今年度第2次補正予算案に関する要望の中で、コロナ禍の農福連携への支援を要請。普及促進に向け、国と地方のネットワークの力で支援強化を訴えている。
■好事例発信し普及を/慶応義塾大学環境・エネルギー研究センター・米田雅子特任教授
農福連携は、人間が幸せになる取り組みだ。
障がいのある人が自然の中で植物を育てる農業は、生きる喜びを感じ、心と体にも良い影響をもたらす。農家も、コロナ禍で外国人材の活躍が見込めず、新たな担い手として選択肢が増える。農福連携は双方が喜ぶベストマッチングだ。
ただ、不慣れな障がい者がいきなり農業に入るのはハードルが高い。そこで、複数の障がい者と世話役の健常者がチームを組み、一緒に農作業を受託する方法ならば農家も安心できる。
今後、さらに農福連携を普及させていくためには、良いモデルを全国に発信することが重要だ。公明党も啓発や周知に一生懸命に取り組んでいる。相談機関の連携を強化しつつ、お互いがウィンウィンになれる取り組みをさらに進めてほしい。