全日本手をつなぐ育成会の機関誌「手をつなぐ」2011年2月号 『ひびき』のコーナーに、谷合正明参院議員のエッセーが掲載されましたので、以下転載します。
(東京事務所)
『私を動かすあっこちゃん』
私の三歳年上の姉、あっこちゃんは重度心身障がい者だ。
私が小学生のころ、施設にいたあっこちゃんは盆暮れにわが家に帰ってきた。家の中には金魚を飼っている水槽があるのだが、あっこちゃんはよく頭をものにぶつける癖があって、水槽が割れて水浸しなんていうことがよくあった。
あっこちゃんの通う養護学校のマラソン大会に出ることになったときは、一緒に走るのが嫌だった。私は走るのが得意で、たぶん一番になると思ったし、障がいを持っている子たちとやりたくなかった。でも、結果は大負け。歯が立たないことに気付いた。
ふとしたときに、なぜ、言葉の話せないあっこちゃんが生まれてきて、なぜ、僕はこうして生まれてきたのかを考えることがあった。しかし、考えてもわからなかったし、わかろうとすると自然に涙が出てきた。
家族の中に障がい者がいるということを当たり前のように育ってきた。弟だから、障がいの子を持つ親の心の内などわかる由もないが、学校では障がいを持つ子には自然体で接することができた。
福祉先進国スウェーデンへ
将来は人に尽くす仕事がしたいと思い、大学入学後は途上国の貧困問題を解決する国連職員を目指した。私は社会保障や国際協力の分野で世界の模範となっているスウェーデンへの憧れが強く、1年間、同国に留学した。
消費税25%の国。どんなに福祉が充実しているのかと思ったら案外質素な暮らしぶりだし、ボランティア意識の高い国民なのかと思ったら拍子抜けするぐらいに皆ひょうひょうとしていた。バリアフリーのためのスロープも、必要最低限でシンプル。日本では過度な工事をしたりするものだが、身の丈に合った社会保障をしているというのが実感だった。
難民支援の仕事をする
卒業後、岡山に本部を置くAMDA(アムダ)という国際医療ボランティア団体で働くことになった。
アフリカやアジアの難民キャンプで、医療支援活動の調整員として汗を流した。AMDAの菅波茂代表からは、援助を受ける側にもプライドがあるということを教え込まれた。難民にとって一番つらいことは、誰からも必要とされず、誰からも知られず、やがて忘れ去られていくことなのだと知った。
弱い立場の人に援助や支援をするだけではなく、人間として生きる尊厳をどう保障していくかをAMDAの活動を通じて学んだ。
福祉施策は政党の枠を超えて
AMDAの経験を生かし、人道の精神を日本の政治に打ち込みたいと決意し、2004年の参議院選挙に出馬した。この時、障がいをもつ姉の存在が政治の原点であることを公言して戦った。政治家になる前は姉のことを自ら語ることはなかったが、人生の進路で姉の存在が大きいことは間違いなかったから。
すると、障がいを抱える方やお子さんが障がいを持っている親御さんから実に多くの声を頂戴するようになった。障がい者福祉には多様な要望があり、そして声なき声も未だにたくさんあることを痛感した。
国会議員になって7年目。与党も野党も経験し、政治が大きく転換する時代に居合わせている。そこで痛感するのは、社会保障を政局にしてはならないということ。年金、介護、医療、障がい者福祉はどれも人生や生活に直結する分野なだけに真剣で精密な議論が必要だが、政局に絡めたイメージ先行の報道や与野党の攻防が多すぎた。今後、たとえ政権交代が起きたとしても、安定的な社会保障制度と財源のベースを築くために、政党間協議や超党派による議員立法で前進させていくことは一つの知恵だ。
ただ、議員立法で法律をつくるには、極めて労力が要る。私は原爆症認定制度見直しの与党プロジェクトチームの副座長を務め、与野党の両時代で議員立法を成立させてきたが、国会終盤で日程確保できず成立が遅れたことがよくあった。各党の手柄争いにしないメカニズムが必要だ。総合福祉法や障がい者虐待防止法、障がい者権利条約の批准など、障がい者福祉では喫緊の検討課題は多いが、いずれもそうした視点が欠かせない。
スウェーデンの福祉に学ぶとすれば、同国の年金制度改革に見られるよう与野党の合意形成のプロセスであって、福祉の制度設計については日本が直面している課題に日本自身が答えを見出さなければならないはずである。
成年後見制度と選挙権の問題
昨年11月に全日本手をつなぐ育成会主催で、各党若手議員によるシンポジウムがあった。私は公明党を代表して出席させていただいたが、その中で成年後見制度について議論になった。質疑の時間で、会場の男性から、「成年後見制度を利用するわが子は、選挙権をはく奪された。これは憲法違反だ」と、国を相手に裁判を起こすことの報告があった。
選挙権がはく奪されることには、私も納得がいかない。あっこちゃんは選挙で投票をしたことはないが、私という一人の政治家に大きな影響を与え、動かしてきたのだ。成年後見を利用したとして、なぜ選挙権まで奪われてしまうのか。
いまだに姉に教わることは実に多く、感謝している。
(全日本手をつなぐ育成会機関誌「手をつなぐ」2011年2月号より転載)
全日本手をつなぐ育成会のHP →http://www.ikuseikai-japan.jp/index.html