郵政民営化法案が衆議院で可決されました。ご承知のとおり、5票差という僅差でありました。私もここまでギリギリになるとは思っていませんでした。郵政改革の中身よりも小泉首相の手法に異議を唱える流れが最後に加速した感があります。今回の件は、政局だけ見れば、メディア的には「面 白い展開」かも知れませんが、国内経済や外交課題を考えると、やはり政治の安定が必要だと思います。
さて、先日、東京都写真美術館で開催されている「世界報道写 真展2005」を鑑賞しました。私は、高校生の頃から、この写真展を見てきました。本年は、インド洋津波災害、ロシア・北オセアチア共和国での学校襲撃テロ、そして、イラク戦争などが取り上げられていました。中でも、アフリカのスーダン・ダルフール危機の写 真が目立ちました。
思えば、アフリカの問題を扱った写真は、報道写 真展では、毎年のように出展されてきました。貧困、紛争、感染症に苦しむ庶民の姿は、アフリカの人道的危機が21世紀になっても解決されずに残っていることを物語ります。
今、そのアフリカ問題がサミットの主要テーマとなっています。「アフリカ問題は世界の良心の傷」(ブレア首相)でありますが、この問題は、サミットの議題になったからということでなく、日本はこれまでのアフリカ支援の実績もありますし、主体的に積極的に関与していくべきだと思っています。(この文章を書いている時に、ロンドンでテロが起きました。テロは断じて許されるものでありません。犠牲になられた方々のご冥福を祈ります。)
ただし、アフリカ支援に関して、一つ気にかかることがあります。債務帳消しキャンペーンです。私はこれはあまり好きではありません。開発協力は自助努力を重視すべきであります。お金を返す必要のない無償資金協力においても、援助依存体質をなくすような支援が必要です。援助の現場に携わる人なら、援助依存と常に戦ってきているはずです。
債務帳消しはこれまでも、政治利用されていて、実際ふたを開けてみると、約束していた債務放棄が実行されなかったりしています。その点日本は、債務帳消しを含めた援助の国際約束は他国に比べて忠実に守ってまいりました。こうした実行性をもっとアピールすべきでしょう。
私がアフリカで活動してきて感じたことは、アフリカに必要なのは、政府機関の強化だということです。政府の機能が弱い国ほど、汚職がはびこる。債務帳消しもよろしいのですが、当該国の社会正義の欠落を許さないことも大事であります。
小泉首相は、サミットでODA額の大幅増を表明するものと思われます。そこで、日本に必要なのは、金額に見合うだけの開発援助の専門家をもっと養成することです。国際機関、JICA、NGOなどの既存の援助機関で働く人だけでなく、大学、企業、あるいは地方自治体の中からも海外で働ける人材を育成していくことが重要です。そうした人材が、日本に戻ってきた時に、海外勤務の経験が評価されるような仕組みを工夫することも忘れてはなりません。
ところで、冒頭の写真展で、私が心に残った写 真はアメリカ大統領選の写真でありました。それはスタジアム全体を映し出した熱狂的な選挙キャンペーンで、ちょうど写 真の右半分が熱狂的なキャンペーン、左半分がガランとしたグランドが広がる光景でした。私には一時の盛り上がりが、すぐに覚めてしまう象徴のように思えましたし、何より自分自身が選挙で様々なことを訴えて当選した政治家の当事者であることから、心に留まったのです。サミットのアフリカ支援の盛り上がりが、続いていくことを願います。約束したことは実行する。これは政治の鉄則でありますが、今のアフリカ支援でも同じことが言えます。
(谷あい)
【エッセー】世界報道写真展からアフリカ問題を考える