○谷合正明君 公明党の谷合です。
まず、渡邊参考人にお伺いしたいと思います。
我が国の二〇一四年の経常収支につきましては、これは通商白書でも報告されているところなんですけれども、過去最小の黒字だと。それから、貿易収支は過去最大の赤字となっていると。このことは、我が国が持つ輸出する力であるとか呼び込む力、外で稼ぐ力、呼び込む力というのは、観光客が来るとかあるいは我が国で起業するとか、そういうことだと思うんですけれども、輸出する力、呼び込む力、外で稼ぐ力の在り方が変化しているのではないかというふうに指摘があるわけでありますけれども、渡邊参考人は、こうした我が国が本来持っている力が今日どのように変化をしてきているのかということについてどのような認識を持っていらっしゃるのか。そして、日本の成長を支えていく上での力を伸ばしていくために通商政策、今回でいえばTPPでありますけれども、TPPをどのように生かせばいいのかということをお伺いしたいと思います。
○参考人(渡邊頼純君) 会長、ありがとうございます。
谷合先生、どうもありがとうございました。
何といいましょうか、国際経済学のストライクゾーンの質問で、大変重要なポイントだと思います。
確かに、日本は今は貿易赤字が少しずつ基調になっておりますし、したがいまして経常収支が少なくなってきている、小さくなってきている、経常収支の黒字が減少してきている、まさにそのとおりでございますが、他方では、日本の投資からの収益でありますとかあるいは知的財産権の、何といいましょうか、日本への移転の収支ですね、こういった移転収支の枠が非常に大きくなってきているということが一つのトレンドとしてあると思います。
つまりは、これまでの、物の貿易で物を輸出して外貨を稼いで貿易黒字をためて貿易黒字が経常収支の黒字の大きな部分を占めているという八〇年代、九〇年代までの発展のパターンから、二十一世紀になりますと、恐らく収支の中でも特に投資収益でありますとかあるいは知的財産権に対する支払、ライセンス料とか特許料とか、そういったようなものの移転収支といったようなものがこれからより重要になってくると。そういう意味では、日本の経済全体がある意味で成熟過程に入ってきている。物を一生懸命作って輸出して外貨を稼ぐというパターンから、知識集約型の産業で、特にそれはサービスなんかも含まれてくると思いますが、そういうところで日本経済が稼いでいくということになるのではないかと思います。
そういうことで、やはり海外における日本の企業の投資環境、それから知財に対するエンフォースメントの強化といったようなことがこれから日本の経済にとっては極めて重要というふうに認識をしております。
他方、いわゆる伝統的な貿易に関しましても、これまで余り輸出をしてこなかった農産品、これがやはり一つの希望を我々に与えてくれているのではないかというふうに思います。今、例えば一キログラム大体五百円ぐらいの標準米が、中国に輸出されますとそれが一キロ千三百円ぐらいというふうに言われております。それは、薫蒸義務といいまして、煙を米に掛けて虫をあぶり出すと、そのための薫蒸義務があって、そのコストとかいろんなコストが、一キロ五百円の国内価格の米が輸出されると千三百円になっているというふうに指摘されております。
もし、こういったような本当に必要ではない薫蒸義務を少しでも削っていく、本当に必要とはされていない様々な衛生検疫基準といったようなものをそぎ落としていくことによって、この一キロ五百円の日本のお米が例えば八百円とか九百円とかといったような価格で売れるようになりますと、これ日本のお米が更に輸出項目として伸びていく可能性がございます。
ですから、今までの日本の農政とその農政の結果としての農業産品をめぐる国際貿易交渉というのは、日本もおたくには輸出しないからおたくも日本に輸出するのは控えてくれという、どちらかといえば縮小均衡的な発想で通商外交、特に農産品をめぐる通商外交をしていたかと思います。しかし、これからは縮小均衡ではなくて拡大均衡、うちもどんどん輸出するからおたくの農産品もいいものであれば買うといったような形で相互に開放していくというようなアプローチ、これが日本の農業を活性化していく一つのきっかけになるのではないかというふうに考えている次第でございます。
以上です。ありがとうございました。
○谷合正明君 それでは、澁谷審議官にお伺いします。
TPP交渉の妥結に向けては、一つはTPPの貿易額の大宗を占める日米間の協議の進展、もう一つはTPA、大統領貿易促進権限法案の見通し、この二つのファクターが大事だということであろうかと思います。
特に、日米間につきましては、衆参農林水産委員会の決議をしっかり踏まえていくという方針についてはこれ変わりないということで認識はしているわけでありますが、TPAの方なんですが、これは本来の趣旨は、米国議会が協定内容の修正を求めず、迅速な審議によって締結を一括して承認するか否かのみを決するという法律だということでは承知しているんですが、一方で、例えばTPAを無効化するというんでしょうかね、そういう条項の要件緩和がなされているんじゃないかと。
かつて米韓FTAでは、署名時にTPAが成立していたけれども、米国議会が批准に反対したため追加交渉が行われたではないかというようなことも指摘もされているわけでありますが、我が国といたしましてTPP交渉合意後の再交渉には応じないと、これが今の十二か国の交渉のコンセンサスというか、各国ともそういうことになっているのか。つまり、TPA法の成案というのが必要十分条件なのか、必要条件なのか、どのようなものなのかという位置付けをお伺いしたいと思っております。
○政府参考人(澁谷和久君) TPA法案が成立すれば直ちにTPPがまとまるかというと、これは全くそういうことではなくて、皆が最後のカードを切りやすい条件になるということでありまして、やはり中身はサブスタンスであります。日米の交渉だけではなくて、知的財産もかなり日米以外の国にとっては相当センシティブな問題でありますし、それ以外にそれぞれの国にとってセンシティブなルールの分野というのはかなりあるわけでございます。これを、先ほど渡邊先生お話ししましたように、マルチであること、それから非常に多様な分野を抱えているということの特性をうまく活用してパッケージでいかに合意にこぎ着けられるかということがポイントではないかと思います。
TPAについては、今の法案いろいろ、先生御指摘のように御議論があるところでありますけれども、二〇〇二年のTPA法においても、たしかアメリカとコロンビアのFTAのときに、当時のTPA法案にはなかった、下院だけが決議をするということで、コロンビアとの協定が非常に遅れたという事案がございます。したがって、TPA法案がどうであろうと、いずれにしても、アメリカの議会がどういうことを言ってくるかということは予測できないわけでございますので、いずれにしても、どんなことがあっても一度合意したものについて再協議には一切応じないということをこれまでも日本は明確にしておりますし、今後もその姿勢は貫きたいと思っております。
○谷合正明君 終わります。