○谷合正明君 公明党の谷合正明です。
私は、公明党を代表し、ただいま議題となりました担い手経営安定法改正法案と多面的機能促進法案につきまして質問いたします。
五月に入り、全国各地で今まさに田植の季節を迎えております。我が国が古来より受け継いできた田園風景です。農業は国の基であるとも言いますが、国の発展を農が支えることは、現代においても変わりません。
しかし、今や、農業生産額の減少、限界集落の増加、さらには耕作放棄地の増加など、農業、農村を取り巻く現状には厳しいものがあります。先日も民間有識者会議が、二〇四〇年には全国の半数の自治体で若年女性が半減し、消滅の可能性すらあると指摘。特に農村地域は深刻な状況と言われております。
片や国政に目を転じても、この十年の間で農林水産大臣は実質十四人もの方々が交代。この間、政権交代もありましたが、農業政策の変更が重なり、猫の目農政であるとの批判を受けてきました。農政の安定的な推進は喫緊の課題と言わねばなりません。
我が国は、国土の制約から規模拡大には限界があること、また地形上からいっても多面的機能の役割を担っていること、全国一律ではない多様性に富んだ営農形態があることなど、ある意味特殊な状況を踏まえた農業政策が重要となっております。
そこで、まず、今後の農村地域のあるべき姿と農業政策の基本的考え方について総理に御所見を伺います。
次に、担い手経営安定法改正法案について伺います。
平成十八年に制定されたこの担い手経営安定法の審査の際、民主党からは、農業者の選別政策であるとの批判が行われました。このため、民主党政権の下では、全ての販売農家や集落営農を対象者とする戸別所得補償制度が実施されました。
私たち公明党は、農家の経営所得安定対策は、固定部分を維持しながら、変動部分について農家からの拠出を伴う制度へ見直し、法制化すべきであると訴えてまいりました。そして今、自公政権の復活に合わせて、政府はその抜本的な見直しについて検討を行ってまいりました。
今回の改正で、現行の経営所得安定対策のうち、対象農業者の範囲や交付金の内容について見直しが行われますが、現場の農家のみならず、納税者である国民に改正の真意が正確に伝わっていない点があるとも感じております。
そこで、なぜ今般、この担い手経営安定法を改正するのか、その必要性について伺うとともに、旧戸別所得補償制度とはどこが根本的に違うのか、総理から国民に分かりやすい説明を求めたいと思います。
次に、多様な担い手の育成確保について伺います。
我が国農業の担い手の動向を見ると、基幹的農業従事者の平均年齢は六十六歳に達し、六十五歳以上の層が六割に対して四十代以下が一割という著しくアンバランスな構成になっています。
緊急を要する担い手の育成確保について、今般の改正法案では、対象農業者として、現行の認定農業者及び集落営農組織に加えて、認定新規就農者が追加され、また面積規模要件が廃止されております。その上で、今後の担い手の育成確保に当たっては、農業分野への若者の新規参入、女性の活用が欠かせないものと考えます。
例えば、農業高校の卒業生のうち、およそ五%の人だけしか就農をしていないなど、農業分野の人材育成にはまだまだ改善の余地があります。また、女性が経営に参画している農業経営体は売上げや収益力が向上する傾向にもあると言われておりますが、そうした経営体の数は多くありません。
そこで、農業の成長産業化を実現し、農業、農村全体の所得を倍増させる目標の達成のため、若者や女性を積極的に活用していく方策について総理に伺います。
また、私は、先日、島根県で農福連携の実証研究を視察してまいりました。そこでは、障害者が働きやすい農作業方法や技術、道具の改良、指導方法を検証しており、障害者を受け入れる農業経営者の増加、また福祉事務所の農業参入促進を目指しております。障害者就労の受皿として農業を活用する余地は大きいと考えられ、こうした取組が裾野を広げ、多様な担い手の確保にもつながっていくと考えます。
そこで、農業と福祉の連携に対する政府の取組方針について農林水産大臣に伺います。
〔議長退席、副議長着席〕
次に、水田フル活用について伺います。
政府は、今後、需要減少が見込まれる主食用米について、麦や大豆、飼料用米など需要がある作物の生産を支援することにより、行政による生産数量の配分に頼らないで、農業者自らの経営判断で作物を選択できる状況を実現していくとしております。
特に飼料用米は、その潜在需要が四百五十万トンにも達するとの試算もありますが、専用のカントリーエレベーターの不足、地元の畜産農家とのマッチング不足、あるいは配合飼料工場が太平洋側に偏在することなど、飼料用米の生産を取り巻く環境整備は十分ではありません。
そこで、現場の農業者が本格的に飼料用米の生産に取り組むに当たっての支援についてどのように考えているのか、農林水産大臣に伺います。
次に、日本型直接支払制度について伺います。
日本型直接支払制度は、耕作放棄地対策にも寄与するなど、地域政策の根幹に位置付けられるべきものと考えております。
しかし、日本型直接支払のうち、多面的機能支払の前身に当たる農地・水保全管理支払において、その交付金の対象となる全国の農用地面積の割合は平成二十四年度で約三四%にとどまっています。普及率八二%の中山間地域等直接支払とは対照的です。
そこで、日本型直接支払制度を法制化する意義について伺うとともに、農地・水保全管理支払が低い割合にとどまっている理由及び多面的機能支払の取組拡大に向けた対策について農林水産大臣に伺います。
最後に、TPP交渉をめぐる動きについて伺います。
日米首脳会談では大筋合意に至らなかったものの、さきの日米共同声明では、TPPに関する二国間の重要な課題について前進する道筋を特定したとの文言が盛り込まれたため、実際は日米両国間の歩み寄りはかなり進んでいるのではないかと一部で指摘されています。
ベトナムでTPP交渉の首席交渉官会合が始まっている中、我が国として主張すべきは強く主張して協議に臨んでいくことが重要であり、我が国農業の存続を危うくするような合意は認められません。
今後のTPP交渉に向けては、改めて、衆参農林水産委員会の決議を踏まえるというこれまでの政府の方針に変更がないのかどうかについて確認するとともに、総理の決意を伺います。
終わりに、緑の革命を成し遂げたインドの農学者スワミナサン博士は、農民が不幸な国は生命を粗末にする野蛮な社会です、農民の幸せな笑顔がその国の幸福を決めると語っています。この農政改革二法案が、我が国の農業、農村のより良き未来を築く礎となることを期待申し上げます。そして、何より生産現場で日々黙々と汗を流されている農家の皆様へ心よりの感謝を申し上げ、私の質問といたします。(拍手)
〔内閣総理大臣安倍晋三君登壇、拍手〕
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 谷合正明議員にお答えをいたします。
我が国における農政の考え方と担い手経営安定法の改正理由についてお尋ねがありました。
古来より瑞穂の国と呼ばれた我が国では、狭隘な国土の中で小規模な稲作経営が営まれてまいりましたが、現在、我が国農業は、農業生産額の減少と高齢化の進展、耕作放棄地の増加等の構造的な問題に直面しており、農業の多面的機能を維持しながら農林水産業の活性化を図っていくことは待ったなしの課題となっています。
このため、昨年末、農林水産業・地域の活力創造プランを取りまとめ、輸出促進や六次産業化の推進による付加価値の向上、多様な担い手の育成確保、農地集積バンクによる担い手への農地集積、美しいふるさとを守る日本型直接支払の創設などにより精力的に取り組んだ上で、さらに、四十年以上続いてきた米の生産調整の見直しを行うこととしております。
今般の担い手経営安定法の改正法案は、このうち、多様な担い手の育成確保を実現するためのものです。また、旧戸別所得補償制度は、全ての販売農家を対象としていたため、担い手への農地の集積のペースを遅らせる面があったことから、意欲と能力ある担い手に集中した経営所得安定対策を確立することとしています。これらの改革を着実に進めることが、農業を若者に魅力ある成長産業とし、農業、農村全体の所得倍増を実現する道だと信じております。
農業における若者や女性の積極的な活用方策についてのお尋ねがありました。
農業、農村全体の所得倍増を実現するためには、経営マインドを持ったやる気のある担い手を確保、育成することが重要です。このため、新規就農者の増大を目指して、若者の新規就農を総合的に支援していくとともに、農業においても女性の活躍の場が広がるよう、新たな発想でチャレンジする女性農業経営者を支援してまいります。
今後のTPP交渉における方針と決意についてのお尋ねがありました。
先般の日米首脳会談では、私とオバマ大統領で、日米間の重要な課題について前進する道筋を特定しました。今回の成果をキーマイルストーンとして、今後、日米が連携して他の参加国との協議を加速し、早期に交渉を妥結できるよう努めてまいります。
現在、交渉は最終局面にありますが、衆参の農林水産委員会の決議をしっかりと受け止め、いずれ国会で御承認をいただけるような内容の協定を早期に妥結できるよう、全力で交渉に当たるという方針に変わりはありません。
いずれにせよ、守るべきものは守り、攻めるべきものは攻めることにより、国益にかなう最善の道を追求してまいります。
残余の質問につきましては、関係大臣から答弁させます。(拍手)
〔国務大臣林芳正君登壇、拍手〕
○国務大臣(林芳正君) 谷合議員の御質問にお答えいたします。
農業と福祉の連携に対する政府の取組方針についてのお尋ねがありました。
農業と福祉の連携の推進を図ることは重要な課題であると認識しており、農林水産省においては、厚生労働省との連携の下、農と福祉の連携プロジェクトとして、障害者や高齢者のための福祉農園の開設、整備等を推進するとともに、農業関係者と福祉関係者も参加した推進協議会を設け、関係者の相互理解を深めるための活動やマッチングに取り組んでいるところであります。また、現在、研究機関が中心となり、障害者が容易に農作業を行えるようにするための技術の改良、開発等を進めております。
このような取組により、今後とも農業と福祉の連携を推進してまいります。
次に、飼料用米についてのお尋ねがありました。
今後、飼料用米の本格的な生産拡大を進めるためには、飼料用米の円滑な流通体制の整備や需要先の確保等が重要です。このため、需要先の確保に向け、供給希望のある畜産農家と生産要望のある耕種農家とのマッチング活動を行っております。加えて、円滑な流通体制の構築のため、耕種側におけるカントリーエレベーターや、畜産側で必要となる加工・保管施設の整備を支援しているところであります。また、配合飼料工場が遠隔地にあっても、全国生産者団体が地域の飼料用米を集荷して飼料工場へ広域的に供給する仕組みの活用も可能です。
今後も、農業者が本格的に飼料用米の生産に取り組めるよう、これらの取組を一体的に推進してまいります。
次に、日本型直接支払制度を法制化する意義についてのお尋ねがありました。
本法案は、農業の有する多面的機能の発揮の促進を図るため、農地維持支払、資源向上支払、中山間地域等直接支払、環境保全型農業直接支援で構成される日本型直接支払制度を法制化するものです。このことは、農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する基本的な考え方や法的な枠組みが明確となる、四つの支払が法制化され、現場で安心して取り組んでいただける恒久的な制度となる、地域の実情に応じ、四つの支払を組み合わせて計画的に取組を推進することが可能となるといった重要な意義を有するものであると考えております。
次に、多面的機能支払の取組拡大についてのお尋ねがありました。
従来の農地・水保全管理支払においては、農業者以外の地域住民の参加を要件としていることなどにより、地域によっては取り組みにくいという課題があり、取組実績は近年ほぼ横ばいで推移をしております。このため、多面的機能支払については、水路の泥上げ、農道の草刈りといった基礎的な保全活動等を支援する農地維持支払を創設し、農業者のみの活動組織でも取り組めるようにしたところであります。これにより、従来取組が行われてこなかった地域においても、新たな制度による取組が行われるようになるものと考えております。
以上でございます。(拍手)