○谷合正明君 公明党の谷合正明です。
本日は、参考人の皆様、本当にお時間をいただきましてありがとうございます。
私の方からまず質問させていただきたいのは、やはりこの法案の議論のポイントとなるのは、原則すべての販売農家に所得補償をしていくということが、それは固定化になるのか、あるいは今の現行の政府の政策はそれは切捨てなのかと、極端な話、そういうキーワードがあるわけでございます。
まず、岸参考人にお伺いしたいと思います。
先ほどのお話の中では、今いろいろ政府の政策について、大規模あるいは小規模、それを選別して排除できるほどの余裕はないんだという趣旨のお話をいただきました。ただ、そうはいっても、受け手、担い手に対して働き掛ける、いわゆる支援策をしっかり充実させていくということは大事な視点で私はあると思っておるんですね。まず、今回の民主党の提案については先ほど、今の農村構造の現状認識があって、しかし、民主党の所得補償法案がいかに法案に書かれている目的とその政策がリンクするのかという課題提起もあったわけでございます。
私の方から質問させていただきたいのは、今回の私は民主党の提案では若干農村構造を固定化させてしまうのではないかという危機感を持っております。その点、岸参考人に、今回の民主党の本法案が中長期的な農業構造の展望を考えたときに、果たしてどれだけ戸別所得補償が受け手が育っていくそういう誘因策になっていくのかと、その点についてお伺いをしたいと思います。
○参考人(岸康彦君) 先ほど申しましたように、私は、今の品目横断的経営安定対策で対象としているような効率的かつ安定的な経営を育てるということについては、民主党の方でも別に反対をしていらっしゃるわけじゃないと思うんです。なぜなら、民主党も食料・農業・農村基本法には賛成をされたわけでございますね。そこのところの基本はやっぱり一つ置いておく必要があるだろうと思うんです。ただ、それだけで済むかどうかということを考える必要が私はあるんだろうと思うんですね。その場合に、その販売農家総ぐるみでやっていいのかどうかというところが今の議論の分かれ目じゃないかと思っておるんです。
ただ、繰り返しになりますけれども、私は、農村というものは農政だけで持ちこたえられるようなものではないと思っているんです。だから、さっき申しましたように、農政の枠を超えたような政策を考えなきゃいかぬ。要するに、もう総力戦なんですよ、農村は。あらゆる施策をやっていかないことにはもたないという状況になってきているところが一杯ありますよね。私がさっきから申し上げているのはそれなんですよ。つまり、振り落とすとか排除するとか、そんなことを言っている余地なんか全くないんだと、そういうことを申し上げたいわけでありますけれども、いかがでしょうか。
○谷合正明君 私も、農業を農政、産業政策だけで、一本で、到底それだけでできるとは思っておりません。その意味では、参考人の今の御意見、非常に分かるわけであります。しかしながら、所得補償法案がすべて解決するともなかなか思えないというところの問題認識は持っております。
次に、生源寺参考人にお伺いしたいと思います。
この質問に関連するわけでありますが、今、岸参考人は、農政の枠を超える、産業構造の枠を超えるようなことをしていかなければ今の日本の農業、農村構造の問題をなかなか解決の方向には持っていけないんだというふうな提起がございました。私の方から、その点について生源寺参考人の御意見を伺いたいのと、現行の政府の品目横断的経営安定対策について、私は中国地方、岡山なんですけれども、やはりその面積要件がかなり厳しくて、もう少し配慮をしていただきたいという声はたくさん伺うわけであります。
もし仮に、現行の政府の政策を見直しする、あるいはもう少し配慮するとすればどういった点に課題があるのか、その点についてお伺いしたいと思います。
○参考人(生源寺眞一君) 今の農政の枠を超えたという岸参考人からの発言、これに関連する御質問でございますけれども、例えば中山間地域の直接支払がございますね。これは、耕作放棄を防ぐという、こういうことに着目して、大小無関係に支払をするという、こういうことでございます。これは農政として私は非常にいいものだと思いますけれども、ただし、このまままいりますと、言わば地域社会が維持されているからこそそこに人がいて、したがって水田が維持されているという、こういう因果関係が強いということになりますと、この直接支払だけであればある意味では裸の政策、孤立した政策で、いずれ集落の消滅とともにその政策も要らなくなってしまうと、こういうことになりかねないと思うんですね。
したがって、むしろ、ある地域についてすべてを今のまま維持することができるかどうか、これはちょっと別といたしまして、やはり国土政策なりあるいはその地域に就業機会をきちんと確保するといった、こういう政策がかみ合うことで初めて実は直接支払も長期的に意味のある政策になっていくんだろうと思います。これは一例でございますけれども、平場にも同じような状況というのはあるかと思います。
それから、品目横断について仮に見直すとすればどういう点があるかということでございますけれども、これは西原参考人の御趣旨と重なるかどうか、ちょっとここは私はあれでございますけれども、まず、きちんとセーフティーネットになっているかどうか、それから、努力した方がきちんと報われるような形になっているかどうか、これは過去の努力も含めてでございますけれども、こういった点は、始まったばかりでございますので、なおさらきちんとチェックする必要があるだろうと。
それから要件でございますけれども、私は、これだけ南北に長い日本の非常に自然条件なり地域条件なりあるいは所得の条件も違う中であれば、これは農政全般に言えることでございますけれども、全国一本の基準で本当にいいかどうかということは、これは政策の手法として考える必要があるだろうと。今、格差係数というような形で弾力的な条項はございますけれども、それぞれの地域の条件を組み込むような、こういう要件の設定ということも今後の課題として私は存在しているというふうに思っております。
○谷合正明君 分かりました。
次に、生産数量の目標について、これも岸参考人と西原参考人にお伺いいたします。
今回の民主党の提案には、基本的に国や自治体の関与というものが強まりました。つまり、国や自治体が対象農産物ごとに生産数量の目標を下ろしていくと、そしてその生産数量に従った農家に対しての交付金という、ここはしっかりリンクしてきたわけでございます。
この行政による生産数量の目標設定のようなことが果たして実行可能なのかと。かつてのような計画経済的と申しましょうか、そういったことが可能なのかということを岸参考人にお伺いしたいのと、また西原参考人には、生産者の立場としてこういった手法、生産数量の目標の決め方について、これをどのように現場としてはとらえていらっしゃるのか、その点についてお伺いいたします。
○参考人(岸康彦君) 率直に言いまして、この法案の生産調整の方式、私にはちょっとよく分からない部分があります。今の地域協議会で決めていく方式とこの今度の方式、法案で提案されている方式ですね、どうも行政の関与の度合いが強まるということなんだろうという程度までは分かりますけれども、どこが具体的にどう違うかということはよく分からないんです、正直言いまして。
ただ、今でも実態としては行政はかなりかんでいるわけですよね。それでなお、しかし過剰作付けはなくなってないんです。それはもう既に信念を持って過剰作付けやっているわけですから、簡単になくなるとは思えない。
そういうことが、この法案で提案されているような行政主導型と言っていいのかどうかちょっとそこもよく分からないんですけれども、そういう方式になっていった場合に、今とどれくらい違う効果を上げられるかというのは、これはもう率直に申し上げますが、私よく分かりません、正直言いまして。済みません。
○参考人(西原淳一君) 今先生の方からお話ございましたけれども、まさしく今年の米の状況を見ていただければ分かると思うんですけれども、今年から米の生産目標数量というのは農業者主体で配分をすることに変えたわけでありますけれども、行政の関与というのを全く後退をさせてしまったわけでありますけれども、昨年までやはり米の生産目標数量についても、農業者もかかわって、やはり農協が主体的にその生産数量の配分というのはかかわってきたわけでありますけれども、そのちゃんとお目付役みたいな形で行政というのはきちっと監視役でいたことが、米の消費減退もありますから、米の過剰米というところについては別な問題もありますけれども、去年まではやはりその生産目標数量を守らなかった県というのは七県しかありませんでしたけれども、今年農業者だけが主体になって生産目標数量を配分したことによって三十三の県でこの目標数量を守らなかったということが今回の米の下落だとか過剰米の発生に大きくやっぱり作用したんだというふうに私はとらえているんです。
そういう観点からいくと、やはり国土をきちっと保全する、農地を保全するという立場からも、やはり行政も、いろんな生産目標数量に対しては行政もやはり関与をするべきだというふうに私たちは思っております。
○谷合正明君 せっかくですので今度は生源寺参考人にお伺いしたいんですが、先ほど市町村の職員のいわゆる事務が膨大になるんじゃないかと。いわゆる、例えば生産数量の目標は決めていくと、そしてそれに従うかどうかというのを各農家ごとに、特に米農家の場合は今回初めて補てんをするという、基本的に差額を補てんしていくということになりますと、さらにそれを市町村のだれが担っていくのか定かではありませんけれども、その点について、つまりこの生産数量の目標であるとか、そしてそれに従った農家がどれだけいるかというその効率性であるとか正確性をチェックする体制というのは果たしてでき得るのか、その点について、参考人、お伺いいたします。
○参考人(生源寺眞一君) 今回の戸別所得法案と生産調整の関係は、岸参考人もおっしゃったように、ちょっとはっきりしないところがあるのでやや漠とした言い方になるかと思いますけれども、そもそも多分、所得補償法案ですね、これ百万とかそれ以上のオーダーの農家の方が対象になるとすれば、それ自体かなりの行政コストが必要になるかと思います。これはもちろん、そのこと自体がいい悪いということではなく、その効果なりと比べてどうかという、こういう議論は一つしておく必要があるかと思います。
それから、目標数量の配分でございますけれども、今は米も農業者あるいは農業者団体ということになっているわけですが、同時にその販売実績をベースに目標数量を決めるという、こういうやり方をこの数年間試みてきているわけなんですね。ある意味では私は、部分的には自己決定的な方式というふうになっているわけですけれども、そういう観点からいいますと、また六九年、七〇年にスタートした、あるいは五十三年に強化された生産調整の方式を持ち込むとすれば、これいろんな問題がございますけれども、市町村の職員が言わば間に立って非常に苦労されているという、こういう実態がこれまであったわけでございます。
ここも、まあ中身が分かりませんのでどうも何となく妙な言い方になりますけれども、もしそうであるとすればこれは、市町村の職員ということは反対しにくい微妙な立場にもありますので、そこは気を遣う必要があるかなと、こう思っております。
○谷合正明君 皆さん、まだその具体的なものが分からないので答えづらいというようなこともあったので、それにちなんで、やはりいろいろ、例えば対象農産物あるいは交付単価も含めて政令にゆだねているところも多くて、なかなかはっきり具体的に分からないという声も多いわけであります。
その中で、今回の所得補償法案の全体一兆円と言われるその積算根拠というのはないと。そして、一兆円というものは獲得する宣言であると。財源については基本的にどれを持ってくるというその確たるものは示しておらないわけでありますが、そういう中で、果たして国民の理解、納税者の理解というのはこれ得られるのだろうか、あるいは得られたと考えるのか、その点について、まず西原参考人に伺います。いわゆる国民の理解、得られるのか、得られたのかと、その点についてお伺いいたします。
○参考人(西原淳一君) 私たち生産者の立場からその一兆円の予算規模についてどうのこうのということは言うべきではない。法案が通ればそれに基づいてきちっとその財源を確保するというのは、それはやはり国の責任だと思いますからそのとおりだというふうに私たちは思っています。
ただ、その財源がどこから持ってくるかというところについても、私たちがそれをどうのこうのそこまで言う、生産者から、何というか、要請するということじゃなくして、私たちはずっと、先ほども申し上げましたように、ガット・ウルグアイ・ラウンドが農業合意されてから、ずっとEUやほかの諸外国みたいにやはり直接支払をするべきだと。そのために、再生産可能なやはり水準の直接支払というのは必要だというふうにとらえておりますから、そういう意味での今回は戸別所得補償法案に対してある程度期待を寄せているところでありますし、財源については法案が通ればそれは国の責任できちっとやっぱり確保できるものだというふうに私たち信じております。
○谷合正明君 その直接支払に対する期待というのは分かるんですけれども、なかなか、私の質問は、国民の理解に対して、生産者という立場であるからなかなか答えづらいという話もあるかもしれませんが、一方で、その点についてどう考えるのかという点であったんですけれども、まあちょっと時間がありませんのでおいておいて。
生源寺参考人に同じ質問をさせていただきますが、この点についてどのように考えられますでしょうか。
○参考人(生源寺眞一君) 初めてこういった具体的な御提案だということでございますので、なかなか細部が詰めにくいという、こういう事情は分かりますけれども、しかし、あらましの財源の必要額なり、あるいはこういうことが起こった場合にはこれはこうなるかもしれないというようなことは、やはりプランとして政策である以上提示をして、その上で議論ということが望ましいというふうに思います。
怖いのは、実際にこれが具体化されていくプロセスで、消費者あるいは納税者の目から見てこれは何だという話になる、あるいは逆に、農家の側から見て期待感と随分違うんではないかということになりますと、これはもう政策として一種のダッチロール状態になりかねないと思うんですね。したがって、検討の段階でやっぱりきちんとした情報を出していただいて積み上げがあってやるべきであって、こちらに振れてまたこちらに振れてというようなこと、それこそそんなことをやっている余裕のないのが日本の、特に水田の農村だろうと、こういうふうに思います。
○谷合正明君 以上でございます。ありがとうございました。