○谷合正明君 公明党の谷合正明です。
私の方からは、まずJALと全日空さんがそれぞれ過去の事故からいろいろなことを学ぶべき施設を、例えば昨年四月に安全啓発センターをJALの方がつくり、また全日空さんの方が今年の一月に安全教育センターをつくられたと。私も昨日、全日空さんの方の安全教育センターを視察させていただきました。
いずれ、JALの方は、昭和六十年の御巣鷹山の五百二十名の死者を出した事故、またその事故の今残っている当時の機体を展示する。あるいは、全日空さんの方は、昭和四十六年に起きました雫石の自衛隊機との衝突事故のあのプロペラのやはり残っているものを、現物を展示している。それを通じて、事故の悲惨さだけでなくて過去の事故からどんなことを学んでいったのかというストーリーで追う、そういうセンターであったわけですが、私も視察して、例えば雫石の衝突事故の、昭和四十六年ですから三十五、六年の前の話でございますけれども、その当時のプロペラの残っているものが、実は昨年まで雫石の山中に残されていたと。本当に事故というのは、風化させちゃいけないなとは思いつつも、風化させるどころか、事故というのは本当に残っているんだなと、事故というか、地元のところに行きますと、やはり、いや、まだ機体は残っていますよとかそういう話を聞いたわけでありますけれども。
そういったところは非常に印象的でありましたし、あるいは家族を失った方の意向、子供さんが書いた作文なんかを読んで本当にじいんと来ました。当時の映像なんかを見まして、経営陣に対して乗客の方、残された家族の方が詰め寄る姿を見て、もう何とも言えない気持ちになりました。
お二人の参考人は、それぞれの施設を、センターを視察されているとは思いますけれども、実際それを見られてどんな思いを持ったのか、端的におっしゃっていただきたいと思います。
○参考人(西松遙君) 先生御指摘のとおり、私ども昨年の四月オープンいたしましたけれども、安全啓発センターということで、旧ジャンボジェットの事故の残骸につきましては今展示しているところでございますが、私自身も最初に入って一番ショックを受けたのは、今度ごらんいただければお分かりになると思いますけれども、一番施設の奥の方にひしゃげた座席が実は残っておりまして、まあ、私は事務屋なものですから、圧力隔壁よりも圧倒的にひしゃげた座席に、何といいますか、ショックを受けたわけであります。あの座席を見れば、お客様がどういう状態にその後なられたかというのは容易に想像付くわけでありますので、そういった意味で、この展示センターというものの持つ意義というのは大変に大きいものがあるというふうに思っています。
百聞は一見にしかずでありまして、これをみんな、新入社員も含めて、整備にとどまらず事務系の人間も含めて新入社員にも全部これを見せておるわけでありますけれども、一様に大変にショックを受けたの一言であります。これをやはり事故を風化させるということのないようにするという意味でいうと、大変に意義あるものであろうというふうに思っておりますので、今後ともこの施設の維持、並びに更に一層の利用拡大についてやっていく必要があるだろうというふうに思っております。
この施設そのもので、安全性のプロシージャーとか、安全はこうしたら担保できますよというようなところを実はねらったものじゃないものですから、そういった部分につきましては、いろいろな教育を通じまして、例えばで言いますと、直接運航に携わっている者に対してはヒヤリ・ハット事例集、これはどういったケースでどういったシチュエーションでどういったことが起こったかという事例集でありまして、ある意味、失敗事例と言ってもいいかもしれませんけれども、そういったものを作って安全の、何というんですかね、意識の高揚を図るというのが一つと。
もう一つは、確認会話集というものを作っておりまして、これは中途半端な会話をしますと安全に支障が来ると。ここまで言ったならここまで全部語れと、それで会話をしろと。こういったことを含めてやりながら、安全性確保という意味でのプロシージャー、あるいは対応というものは更に一層深めていきたいというふうに思っています。
そういった意味での原点がこの安全啓発センターであり、かつ御巣鷹山そのものである、こんな認識でやっていきたいというふうに思っています。
○参考人(山元峯生君) 谷合先生にはお忙しい中、グループの安全教育センターを御視察いただいてありがとうございました。
御指摘のように雫石事故、昭和四十六年の七月三十日でございまして、私が入りましたのが四十五年でございます。したがいまして、社員のもう九九%が事故を知らない社員で構成されております。やはり、過去の事故を風化させないための教育施設ということで、これは羽田の旅客課の若い女子社員の提案で実現したものでございました。
ごらんになってお分かりのように、確かにこの事故の生々しい現物あるいは新聞記事、我々、ANAグループに入社した者は、大変な会社に入ったんだ、一歩間違えばお客様の命を預かる大変なグループに入ったんだというのをその時点で理解できるようにはなっておりますけれども、我々が一番大事に思っておりますのはその後半の部分の、人間はエラーをするものである、そのエラーをどこかで断ち切らなくちゃいけない、それをシステムで断ち切らなくちゃいけないというのを、具体的な事例を挙げて研修をさせるという目的です。
したがいまして、今まで安全、安全といいますと、整備、パイロット、客室乗務員はそれは毎日乗務しておりますから身にしみておりますけれども、セールスの現場あるいはコールセンターで電話を取る人間は、そうはいってもエアラインのグループにはいても、直接自分たちが安全にかかわっているという意識はなかなか持てなかった。ですけれども、その研修センターの中の最後のコーナーで、例えばコールセンターの一係員の電話で団体の構成人数を、子供さんの数と大人の数を間違ったところから、それだけで即事故には結び付きませんけれども、いろんなものが連鎖して、結果、しりもち事故につながるというようなケーススタディーも作っておりました。
要は、ANAグループ、セールスを含めて、航空輸送事業に携わる者というのが安全をすべてに優先するんだというのを新入社員のときからきちっと教育をして、安全優先という風土を醸成していきたいと、この一念でつくりましたので、新入社員の教育はもちろんもう最初から優先的にやりますけれども、三万人のグループ社員をなるべく短い期間内にこの研修施設で研修をさせたいというふうに思っております。
○谷合正明君 今なるべく短い期間のうちに研修させたいというお言葉がございましたが、確認させていただきますが、JALの系列社員は約五万人と、全日空さんの方におきましては約三万人でございますけれども、ただいまのところ、それぞれ両社の目的等経緯は違うかもしれませんが、研修の系列社員、どのくらいまで研修を行ったのか、現状と、あとどのくらい、重なる部分もありますけれども、全社員を研修させていくのか、そのめどについてお聞かせください。
○参考人(西松遙君) 私どもの安全啓発センターがオープンしたのがちょうど四月の二十四日でしたのでおおむね一年になるわけでありますけれども、この一年の間に内外を含めて二万人の方にごらんいただいています。中は当然、グループ社員を含めてということでございますけれども、比率が、大体六割がグループ含めたJAL社員、それから残り四割が外部の方と、こういう構成になっています。
したがいまして、この一年間にグループ社員という意味ではまだ一万二千人であります。グループ全体で、先生御指摘のとおり、今五万三千人ぐらいの世帯になっておりますので、そういった意味ではまだまだ三分の一から四分の一ぐらいしか見学していないという実態であります。これをなるべく早い時期に、単純計算するとあと三、四年掛かっちゃいますけれども、こういった大事な施設でありますので、なるべくいろいろな教育のカリキュラムにグループ各社とも取り入れまして、積極的にこの施設を使って安全意識の高揚を図っていきたい。
先ほど山元社長もおっしゃったとおり、直接運航に携わる、あるいは安全に携わるという者だけではなくて、グループ社員全体がこの安全意識をきっちり持つことによって、例えばでありますけれども、安全に直接かかわる人たちに対するプレッシャーにならないような配慮をするとかいうことも含めまして、グループ全体の安全性の向上に努めていきたいと、こんなふうに思っております。
○参考人(山元峯生君) 今年の一月にオープンしまして、二月の一日からの新入社員教育から始めました。三万人、三年以内に研修させたいと思います。
○谷合正明君 それで、先ほどからグループ内あるいはグループ外という言葉出ているわけでありますけれども、私も実際見てみて、本当に重要な施設だなと。聞いてみましたら、国土交通省の航空局の方も研修に行かれているようなことも聞いたわけでございますけれども、例えば整備に携わる人間でも、その三万人、五万人の中に入っていない整備に携わる方も業界にはたくさんいらっしゃいます。あるいはテロ対策なんかでは、空港の警備員なんかもこれ非常に重要なポジションにいらっしゃる要素なんでございます。
そういったことを考えますと、系列社員だけで安全対策というのは完結するものではございませんので、むしろ、せっかくの安全の原点となるものを両社ともに造られたわけでございますので、決して自社の安全PRのためのものではないわけでありますので、もう少し、最初はコアの部分から研修していくんだと思いますけれども、もっと広めた概念を是非導入していただきたいなと思っております。
次に、質問に移らせていただきますけれども、二〇〇七年、今年からいよいよ団塊世代の方の退職が始まるというわけでございます。両社ともに新規採用を増やしてこれまで乗員養成というものを行っておるわけでありますが、それだけでは必要数の運航乗務員を確保できないために、今定年退職後の加齢乗員の採用であるとか、あるいは外国人の運航乗務員の採用にも踏み切っていると。しかし、思うように現場の方ではその乗員の体制が進んでいないというふうに聞いております。
特に小型機領域においては事態が深刻と聞いておりますが、こういった運航乗務員に限らず、あるいは整備等の分野におきまして、団塊世代の退職期における技術の伝承をどうするのか、そしてまた、先ほど山元参考人の方から話がございましたが、系列社員の九九%が雫石の事故を知らないという方が占めておるわけでございまして、過去の事故を風化させないためにも、この技術や経験の継承といったものをどうするのか、どういう取組をされているのかについてお伺いいたします。
○参考人(西松遙君) まさしく二〇〇七年問題は私どもの会社も例外ではございませんで、もう大量に、いわゆるベテランの整備士が退職する時期に入ってきておりますが、御案内のとおり、再雇用といいますか、再雇用をするというような仕組みも実はございますので、我々としましては、できるだけこのベテランの整備士、あるいはスキルを持った経験のある人たちにつきましては、こういった再雇用制度なんかも利用しながら、まだまだしばらく会社に貢献してもらおうと。
それと、若い人たちになるべくミックスして仕事をすると。そうすると、まあ若い人たちも、ふと気が付いたときにベテランの技を盗める、あるいは聞ける、質問ができるということになりますので、それをひとつきっちりやっていきたいということと、やはりそのベテランの方も、やっぱり教えることに大変に、何といいますか、生きがいを感じるみたいなところがありまして、やはり自分の学んだものを次世代に継承していくと、こういう作業は、やはり日本人のいいところなのかもしれませんけれども、大変そこで生きがいを感じるという部分もありますので、そういったところを踏まえて、やっぱり交ざって仕事をする、ベテランと新人が交ざって仕事をすると、こういったところを心掛けていきたいなというふうに思っています。
当面のところ、そんな形で対応していきたいというふうに思っております。
○参考人(山元峯生君) まずパイロットでございますけれども、二〇〇七年問題、二〇〇七年から五年間の間に四百五十名の退職が起こります。これはもうずっと構造ですから分かっておりましたので、二〇〇九年に卒業生が出てまいりますけれども、東海大学と提携いたしまして、東海大学の工学部の中に操縦士養成講座というものをつくりまして、軌道に乗りましたら二〇〇九年から六十名ずつ卒業生が出てくる。
それから、まあこれは主に、外国人パイロットの派遣という会社は海外の会社が専門にしておりましたけれども、我々のグループもハワイにクルーズという外人パイロット派遣の専門会社をつくりました。これが軌道に乗るのはもう一、二年は掛かるんだというふうに思いますけれども、先ほど言いましたように、四百五十名が定年退職をしていったその後に、いわゆる羽田の第四滑走路、あるいは成田の延伸、こういう航空ビッグバンが待っております。それに向けて乗員については対応していこうと思っております。
整備につきましては、先ほど申し上げましたように、雇用延長制度その他をつくりまして後継者の教育に当たらせたいと、こういうふうに思っております。
○谷合正明君 それでは、次の質問に移らせていただきますが、定期航空協会の役割なんですが、今のところ十七の事業団体が所属をしております。安全、安心のその情報や技術のシェアという面においてどんな役割を持っているのだろうかと。
今回の高知空港でのボンバルディア機の事故についてはどのような対応を取られたのか、山元参考人にお伺いいたします。
○参考人(山元峯生君) 御案内のように、二〇〇五年の初頭から、エアライン、我々も、二〇〇五年の四月、五月、六月、三件の厳重注意を国交省から受けまして、それからJR西日本の事故等もありました。あの年というのは、前半から公共の輸送機関に対する国民の信頼を失われたときだったと思います。
それで、定期航空協会で安全委員会というのを二〇〇五年の七月に立ち上げまして、二〇〇五年は毎月一回、それから二〇〇六年は二月に一回、安全委員会をやってまいりました。最初は各会員会社の安全対策に対する各社の現状、それから企業のヒューマンエラー、これを、例えばJAXAのロケット事故の教訓を講師として招いてお聞きしたり、あるいは国交省の当時の岩崎局長から航空輸送の安全確保に向けた今後の取組、それからJALさんが柳田先生から提言を受けました安全アドバイザリーグループ、この提言を協会として、JALさんに提案がなされましたけれども、これを協会としてもう一度かみ砕いて会員会社で共有できないかと。
こういう安全に関する活動を二〇〇五年、二〇〇六年、二〇〇七年と続けてまいりました。
○谷合正明君 先日、十三日に、スカイマークエアラインについて、国交省の方から、整備ミスを認識しながら運航を続けていたということで、安全運航確保についての基本認識が不十分との厳重注意が出されたわけでございます。
同社におきましては、定期航空協会を脱退しております。脱退したそのスカイマークエアライン社は、先ほど定期航空協会の取組をるる御説明いただきましたけれども、そのような安全対策、お互いに協議し共通の対策を講じるという中に入っていないわけでございまして、安全確保については不利になるのではないかなと思うわけでありますが、定期航空協会の見解を伺いたいと思います。
○参考人(山元峯生君) 先生おっしゃいますとおり、この定航協の安全委員会等で議論をしております。この委員は各社の社長が基本的に出ておりますので、安全に関する情報、あるいは他産業のヒューマンエラーに対する教育の実態、知見の共有、安全管理体制、こういう貴重な情報を共有していただきたいと思いますし、これが、スカイマークさんが脱退されてこれを共有されていないということは非常に残念なことだというふうに思っております。
ただ、二〇〇五年の六月十五日に、協会の運営に関する認識の違いということを理由に脱退をされております。
○谷合正明君 ちょっと時間がないので更に突っ込んで質問できないんですけれども、いずれにしましても、乗る方としては、航空会社によって安全の対策というかレベルが違うというのであれば、それは私は本当に不安になることでありますし、もう少し業界全体として取組を図っていただきたいなと思っております。
最後に、残された時間で、先ほど来お話がありましたヒューマンエラーについて、国交省さんにお伺いいたします。
航空事故の原因についてはいろいろあるわけでありますけれども、その多くはヒューマンエラーにあると言われていると。特に、まあ何割かという科学的なデータはないのかもしれませんが、雑駁に言うと六割とか、そのぐらいはヒューマンエラーではないかと。さらに、その大部分というのは乗員、特にパイロットの占める要素というものは大きいんだと言われております。
そのヒューマンエラーについては、初心者は初心者なりのエラーもありますし、経験者は経験者ゆえのエラーもあると。だから、ヒューマンエラーというのはゼロにすることはできないんだと、そういう前提の上でこの安全向上対策を図るべきだということを、私、昨日、施設を見学して学んだわけでございますけれども。
ただ、ヒューマンエラーについてもここ数十年いろんな面で質も変わってきていると思います、内容も。最近のヒューマンエラーの傾向と分析について、あと、国交省としてはどのような対策を講じられているのか、最後に国交省にお伺いして、質問を終わりにいたします。
○政府参考人(鈴木久泰君) 先生おっしゃるように、昨年以来の多くのトラブルのかなりの部分がヒューマンエラーに起因するものと私ども考えております。例えば、マニュアルなんかをきちんと遵守されなかったがためにヒューマンエラーで起こった事例、あるいは乗員間のコミュニケーションが不足しておって全体として効かなかった事例、いろいろございます。
このため、私ども、専門家を集めた委員会もつくりましていろいろ今検討しているところでありますが、特に、エラーが発生する前の、スレットと言っている、そのもう一段階前のいろんなきっかけ、そこから掘り起こして、スレット・アンド・エラー・マネジメントと言っておりますが、エラーを未然に防止できるようなやり方できないかというようなことも含めまして今やっておるところでございまして、また、昨年十月に施行されました改正航空法におきましても、これまでは事故と重大インシデントという、重大なトラブルだけ報告を受けておったんですが、その前の安全上の軽いトラブルについても事業者から報告を受けて、それを十分分析することによりましてこのヒューマンエラーに向けての対策もしっかりやってまいりたいと考えておるところでございます。
○谷合正明君 終わります。