○谷合正明君 公明党の谷合正明です。
本日、両参考人ともに示唆に富むお話をいただきまして、本当にありがとうございます。私も関心事としては、韓国がどうなっていくのかということにもあったわけでありますが、前段に質問が重なっておりますので、そこはちょっと省きまして、日本の安全保障政策、まあ防衛政策が今回の核実験を機にどういうふうな転換点を迎えているのかというところをお二人の参考人に、同じ質問でございますが、お聞きしたいと思います。
いろいろ、ミサイル防衛の前倒しでありますとか、あるいは中国、韓国にPSIの加入要請をするだとか、あるいは先ほど武貞参考人の方からありましたように、情報衛星の在り方も見直さなきゃいけないというようなお話もございました。あるいは、臨検に実際至った場合にどうなるのか、まだ法的な整備ができていないじゃないかとか、いろいろなお話があったと思います。そこで、日本の防衛政策、安全保障政策がどうあるべきなのかというところをお聞きしたいと思います。
そして、それに併せて核保有論議というのが、これもうずっと出ております。私自身も、もちろん日本が非核三原則を持っておりますので、このメッセージというのをしっかりと内外に、国内外にメッセージを出すことが重要であろうと。特にこの北朝鮮の今回の問題、短期間に問題が解決するわけではありませんし、長期にわたっての取組でありますので、日本の国是がぶれないことが、もうこれは当然のことであると思っております。
しかしながら、この核保有論議というのが出てきております。武貞参考人のいろいろ参考資料なんか読ませていただきました。これは一部の人が、元々持論を持っている人が言っているにすぎないというようなことも武貞参考人が言われていたと思いますが、日本人、日本というのは核保有という、そういういっときの感情によらずに冷静な判断ができる国民でもあるというようなことも言われていたと思いますが、そこで、そういったことを含めて御所見を伺いたいと思います。よろしくお願いいたします。
○参考人(武貞秀士君) ありがとうございます。
〔会長退席、理事加納時男君着席〕
日本の安全保障にとって、今回の核の実験がどのような示唆を与えているか、そして日本の安全保障、その示唆に基づいてどうあるべきかという点について申し上げます。
いろいろな示唆、七月の五日のミサイルの発射、そして十月九日の核実験、この二つから幾つかの示唆を我々に与えているわけであります。
それは、先ほども申し上げましたように、まず第一に、こういったミサイルの発射の兆候でありますとか核実験の兆候があるときにはいち早くその情報を入手してどう対応すべきかという情報の迅速な入手、この能力はまず大事だということを我々も学んだわけであります。
それから、このような事態になりますと、隣の国が核兵器を持って日本を脅かすというシナリオがあるかもしれないと日本人は考えたわけですね。十月九日、その日以降、町の街頭で、テレビのカメラが道行く人にこれどう思いますかと言うと、いや、日本も核兵器持ってもいいんじゃないですかと答えていた町の方もおられました。日本人は真剣にこの朝鮮半島から来るかもしれないミサイルの脅威というものを考えているわけですね。中国が地下核実験をしても、そんなに日本人は真剣に日本が中国の核弾頭の目標になるとは考えなかったと思うんですが、もちろん考えた方もおられますけれども、それに比べると、圧倒的多数が日本はこれで安全だろうかというふうに考え始めたわけですね。
こういったことを考えますと、核の傘というものが本当に機能するかどうかということを日本人は考える時期が来た。そして、私は、一回の核実験とか七月のミサイルの発射によってアメリカの核の傘が傷付いたとか破れたとは思いません。そういう意味で、その核の傘の再確認と、かつ、これからもアメリカとの信頼関係、これは永久に堅固なものであるかどうかは、日本人の努力ということも必要ですから、永久に今後もアメリカの日本に差し掛けられている核の傘が堅固なものであり続けるように、日米関係の様々なレベルでの信頼性の強化と、これは私は七月以降の様々な北の動きの教訓の一つであると同時に、我々に与えられた課題の一つでもあると思います。日米関係の更なる信頼性の強化ですね。
〔理事加納時男君退席、会長着席〕
さはさりとて、ミサイル防衛のシステム、これも私は前倒しをしてでも導入が必要だというのは、核実験の二日後のある新聞の座談会でも発言したんですけれども。すなわち、実際に着々と核実験をし、かつ、ミサイルの射程を延長しようとしている国がいるということ、そしてそれはシナリオいかんでは日本にもその目標を定める可能性がある国であるということを踏まえて考えると、少なくとも、飛んできたものを払いのける、あるいは日本に向かって飛んでくるものを発射の直後に海上からそれを落とすという能力はできるだけ早く日本が身に付けると同時に、在日米軍のミサイル防衛のシステムも数を増やしてもらうようにするということも必要であろうと。これは飛んできたものを払いのけるという話ですから、中国、韓国等の理解を、理解といいますか反発を、それほど大きな反発を受けることなく可能であろうと思います。
したがって、日本の近隣諸国の日本に対する大量破壊兵器の脅威というものは現実として存在しているんだということも教訓の一つであろうと思います。そして、非核三原則という原則にのっとって日本は当然、国際社会の信頼を今までかち得てきたわけでありますので、非核三原則というものを確認すると同時に、いろいろな誤解に対しては解かなければいけないと思います。
この間、十月以降もドイツ、イギリス、アメリカ、韓国なんかのメディアから同じ質問を受けました。大体、三十分ぐらい質問受けると二十五分ぐらいは日本核武装しますかという質問なんですね。
実際、核武装をする論議は必要ではないかという論議の中にも具体的な議論は実はほとんどないわけですよね。核兵器を持つといっても、その持つに至る核実験場が日本にあるだろうか、あるいは日本こそもう世界でも最も透明性の高い予算のシステムを持っていて、内外のあらゆる人は日本が核武装を決断したというときには瞬時に分かる、どこの予算でどういうふうに実験をしようかとしているかということも含めて分かるシステムになっていますから、そういったものをくぐり抜けて秘密に核を持つことができるだろうかという問題とか、あるいは核兵器であれば、これは敵の攻撃に対して生き残る能力がなければなりませんので、核戦力を抑止力として持つにはやはり潜水艦発射弾道ミサイルが必要ですね、そうすると原子力潜水艦が必要ですね。となると、原子力潜水艦、それから潜水艦発射弾道ミサイルの技術というのは日本にありませんし、購入する予定ももちろんありませんので、本当の意味での抑止力としての核戦力を持つということは、具体的にどういうアイテムが要るかということと、それらをそろえた上での運用、どういう運用をするかという議論も全く欠けたまま核を持つとどうだろうかという議論が、私は外国に対してちょっと誤ったシグナルを送っているのかもしれないなというふうに思うわけですね。
それよりも、むしろ私は、お手元にあります参考資料の中で幾つか申し上げた点ですけれども、通常戦力の整備というものの方の議論の方が大事であろうというふうに思います。それはいろいろな、一番最も手っ取り早いのは、情報収集衛星の数の増加と、そして日本に向けて攻撃を準備している弾道ミサイル発射基地の動きが激しくなってきたときに、いち早く日本がそれをキャッチして、国際社会にアピールして、そしてアメリカ、韓国との事前の、数日以内というような、そういうタイミングででも、協調、協力のための外交を展開する日本独自の情報、こんなものがやはり必要だろうというふうに思いますね。
ですから、長期的にどうすればよいかという点でございますけれども、今の段階では、いろいろな多様な議論が出てきたということは事実だと思うんですね。非核三原則に関するいろいろな発言とか、敵基地攻撃能力を持つという議論は、議論自体が抑止力の効果はあるんじゃないかという議論も含めて多様性が出てきた。それを少し整理しながら、本当に日本の置かれた、貿易立国としての日本の条件の下で、防衛戦略どうあるべきかというのは、官界、財界、学界問わず、議論は高めていく必要がある。そういったことを教えてくれたのは、ほかならぬ金正日総書記だったのかななんということになるのかもしれないと思います。
○参考人(伊豆見元君) ありがとうございます。
私は、まず、これ一緒にして申し上げたいと思いますが、核保有論議というのは基本的に必要なものだと思います。その論議をする、議論をすることは必要。しかし、少なくとも相当諸外国に、誤解ではなくて、一方的な思い込みをさせる可能性というのは非常に高い話題ですから、だとすると、相当静かにといいますか、冷静にしなければいけないのが一点。要するに、相手に誤解を与えるということよりも、私は変な思い込みを与えるという方が正確じゃないかと思っていますが、その可能性極めて強いということがありますから、静か、冷静というのが第一点、必要でしょう。
二つ目は、やはり具体的な話がないといけないと。今、武貞先生が言われた運用面での話というのはその一つだと思いますが、その点について二つ私は加えさせていただきたいんですけれども、一つは、今この核保有の必要性ということについて議論を始めるその動機は北朝鮮の核の脅威だということでありますが、実際、ここで日本が核保有を決断して、様々な技術的な問題をクリアしながら、実際、少なくとも北朝鮮の核に対するある抑止力が形成できるような核兵器が持てるときにまで一体どのくらい時間が掛かるんだと、どのくらいお金が掛かるんだと。で、大体間に合うのかという話であります。まあ、それは分からないと思いますけれども、でも、だとすると北朝鮮の核ということだけを考えて日本は核武装をすべきなのか、核保有すべきなのかという議論は、私はかなりまじめさが足らないと。どうせできるのはかなり後になるかもしれないということを前提にすると、やはり中国とどう対応するのかと考えてやるその核保有論議というのが当然必要だろうと思います。そこまで踏み込んだ議論がどのように闘わされるのかというのが一つの問題と。
それと二番目は、これ非常に簡単なことだと思いますけど、秘密裏には恐らくできない、それは今、武貞先生が言われたとおりです。これは、やっぱり日本は堂々と核保有国に、目指すんだと言ってやるというオプションしかないと私は思いますが、その際、アメリカの同意が得られるのか、支持が得られるのか。まあ同意までは必要ないですね、支持が得られるのか、国際社会の支持が得られるのかというのは、極めて大事な部分は日本の原子力平和利用の部分だと思います。少なくとも、日本が堂々と核保有の道を歩むのであれば、今の核拡散防止条約からは脱退するわけであります。非核保有国じゃなくなるわけですし、それを前提とした核の平和利用についての様々な国からの協力、とりわけ核保有国からの協力が果たして得られるかどうか分からなくなるという前提でやらなきゃいけない。
現在、日本の原子力発電は三五%ぐらいでしたか、たしか全体の電力の三五%ぐらいだったと思いますけれども、日本には天然ウランがないわけでありますから、そのまず天然ウランを外からきちっと供給してもらって手に入れなきゃいけないわけですし、あるいは使用済みの核燃料の再処理も今外に出しているような部分もありますし、そういうものも全部その前提で、前提でといいますか、日本が核保有国になっても諸外国は日本の原子力の平和利用の部分について変わらぬ協力をするという話なら分かる。これが得られないままに核保有をするという、例えばその選択肢を国民の前に示したときに国民がどう考えるのかというのは、私は非常に大事な問題だろうというふうに思います。
電力面で相当な我々は耐乏を強いられるという話ですね。それでもいいんだと。というか、逆に言うと、それを忍んでまでも核武装しなければ我々は外の脅威に対抗できないんだという本当に話なのかどうかという突き詰めた議論が恐らく必要になるということだと思いますし、しかもそれは北朝鮮なのかという話でありまして、北朝鮮がそうなんだと言っているうちに、造っているうちにもう間に合わないという話です。
やっぱり中国なのかと。じゃ本気で中国とどこまでやる気なのかという話も議論しなきゃいけない。議論しなきゃいけないことはたくさん実はあると思いますし、そういう具体的な議論をしていただくことは、私は、結構といいますか、必要なことだろうというふうに思います。
ですが、私は個人的には日本は核武装をすべきではないと思っておりまして、それはいろんな問題で難し過ぎるということもありますし、大体バランスシートを考えたときに、とてもじゃないですけれどもマイナスの方が大き過ぎるという話であります。私は、外国の人たちと話していると、そういう話が一番説得力があるなと思います。損得勘定というのは一番大事でありまして、日本は損になることはやらないぞと言うと外国人は信じるというところがあるかなと思います。
非核三原則というのは極めて大事な原則ですけど、なかなか外国人の目から見るとよう分からぬみたいなところがあって、その原則があるから日本は核武装はしないのだというのは、外に向けての説得力という意味では、やっぱりちょっと不足しているところがあるかもしれないと。
あるいは、日本が唯一の被爆国であるということについても、被爆国である国が核武装してなぜいけないんだという疑問が国際社会の中にはたくさんあるわけで、むしろ、被爆国であってその悲惨な状況を知っているがゆえにそれを、更に再びその惨禍に見舞われないように自分が自ら核を持って武装するという方がまともではないかという考え方が国際社会の中に私は非常に、強いとまでは言いませんが、確かにあるわけですから。
やっぱり、被爆国であるということが日本が核武装をしないということの理由として国際社会に受け入れられるというのはなかなか難しい話だろうと思いますので、そういう議論が、やっぱり具体的な議論というのがすごく必要だろうというふうに思います。
その上で、ですが、じゃ当面どうするんだと、日本の政策についてというと、基本的にはやはり日米安全保障体制、日米同盟で日本の安全を守っているということであると。状況が随分変わったと。北朝鮮のミサイル能力についても、あるいは核能力についても大きな変化を今示し始めているかもしれないわけですし、いずれ北朝鮮の核ミサイルというものが我が国に向けられるということ自体も考えざるを得ないとすると、正にそのアメリカの、基本的に言うと核の傘というものが、今は核の傘できちっと守るべきという話になるんだろうと思いますが。
そうすると、非常に今の時点で一番必要なことはアメリカが明確なステートメントを出すことだろうと。これ、今アメリカの中でもいろいろそういう意見が出てきていることは御案内のとおりでありますが、すなわち、日本に対する攻撃はアメリカに対する攻撃とみなしてアメリカは必ず報復するという、そういうタイプのステートメントであります。
特に、日米という文脈でいいますならば、我々は、そろそろ改定の時期であろうと思いますが、日米防衛協力のガイドラインというのは、これは九七年にできていると。九七年のときはまだ正に九・一一の前ですから、国際的な範囲でのテロに対してどう対応するかという部分の問題が抜けているわけですし、さらに北朝鮮のミサイル能力であり、核能力でありというのも九七年の時点ですから抜けています。今全く二つ新しいものに我々は対処していると。
例えば、その九七年のガイドラインは、日本に対する武力攻撃に際しての対処行動というところで、作戦構想の中のその他の脅威への対応というところに入っているのが、弾道ミサイルの攻撃に対応するためというのが入っています。しかし、弾道ミサイルの攻撃に対応するために米軍は何をするかというと、必要に応じて打撃力を有する部隊の使用を考慮するんだというんですね。必要に応じて打撃力を有する部隊の使用を考慮する、かなり弱い表現ですね。
ですから、これはその当時ならよかったのかもしれませんが、今のように北朝鮮の弾道ミサイルの能力が極めて明確になり、なおかつそれが将来、核ミサイルになるかもしれないというときならば、北朝鮮の正に弾道ミサイル、核ミサイルが日本に撃ち込まれて、その攻撃を受けたときはアメリカは必ず北朝鮮に対して報復する、その文言がここに入ってくることが重要であろうと。あるいは、日本に対して核が使用されるという可能性も、かつてはほとんどないものが今はかなり現実のものになってきているとするならば、正に日本に対する核攻撃はアメリカに対する核攻撃と同等とみなし、アメリカはその国、日本を攻撃した国に対して核をもってでも攻撃するという、そういうものが今一番必要なものだろうと私は思いますし、特に日米のガイドラインの改定はそういうことが必要になると思います。