○谷合正明君 公明党の谷合正明です。
WTOについて質問をいたします。もう前段に幾つか重なるような質問が出ておりますので、重複する部分は省くようにいたします。
このWTOの交渉が今非常に難航しているということでございますが、米国、またEU、そして途上国の各陣営が三すくみの対立に陥っているという結果によって六月末の閣僚会議でも物別れに終わってしまったと。一般、いわゆるマスコミ各紙によると、どの社説を読んでも大変残念な結果であるというような論調でございました。しかも、米国、またブラジルではこの秋に選挙が控えているという中で、保護主義の動きが一段と強まっているかのような推測という、予測があるわけでございます。しかしながら、自由貿易のルールの信頼感がこのままで喪失されてしまう、そういった危機感もこのサミットの中で出たわけでございます。
私も、各国が目先の利害にとらわれることなく、この貿易の障壁となっているような関税、補助金に関する共通のルールができた方がよりその恩恵というものはあるんだろうと、そういう認識に立っております。その意味では、WTOのこの交渉が八月中旬にしっかりと大枠合意ができるように各国首脳にも要望したいわけでございます。
質問通告では、最初に大臣に交渉のこれまでの評価をお聞きする予定でございましたが、幾つかもう出ておりますのでそれは省きさせていただきます。
今、関心事項としては、このサミットでの声明を受けて一か月以内に大枠合意をすると。先日のジュネーブの会合におきましても、この七月に集中的に協議を行う。つまり、今週末二十三、二十四日、また二十八、二十九、あるいは引き続き三十、三十一日と、こういう集中的に協議を行うということでございます。
ただ、基本的にアメリカの出方が分からないのでどうなるかは不透明だという向きが主ではございますが、報道によりますと、アメリカには譲歩の用意があるという観測というか憶測なんですけれども、国内補助金を百五十億ドル削減と、七〇%削減、つまりG20に近づけるような内容となっていると。一方、市場アクセス分野におきましても、EUがG20平均削減五四%に近づける用意があるというような発言も会議の場でしているということで、アメリカ、EUがそれぞれG20提案に近い数字を落としどころに交渉を進めるという予測あるいは観測もあるわけでございますが、そういったときに日本がどういう対応をするのか、細かいはなかなか今交渉事ですので答えはできないとは思うんですが、どういうシミュレーションをしているのか、その辺りお答えできる範囲で答えていただければと思います。
○国務大臣(中川昭一君) 今、谷合委員がおっしゃったように、まずEUは、いわゆるG20提案という、国内支持とマーケットアクセスの提案がありますが、EUは、最初の自らの提案からG20の方にマーケットアクセスを近づけるということをいろんなところで言っているようであります。
それから、今、谷合委員がおっしゃった、アメリカの方は、国内支持、これは、G20は七五%削減と、貿易歪曲全体ですね、について七五%削減ということでありますが、正式には、去年の十月にアメリカが五三%削減、二百二十六億ドルですか、という提案をいたしました。それがアメリカの公式の提案なんですけれども、ここに来て、つい月曜日の段階では、交渉の内容は余り外には申し上げられませんけれども、アメリカは自分のところは動かないで輸入国側に対して更なる柔軟性を求めるというふうなことを言い続けておりましたが、ここに来て、きちっとしたものではありませんけれども、今、谷合委員がおっしゃるように百五十ぐらい、つまり七〇%削減ということになるんだろうと思いますが、そういうふうな話がちらちらと聞こえてきております。正式に私は聞いておりませんけれども、今日も一部の新聞、日本の新聞にも出ておりましたし、アメリカ、EU等の新聞にもそれでいいんだとだれかが言ったみたいな報道が出てきておりまして、これは本当にそうなのかなと。今まであれだけ、ロブ・ポートマンあるいは今度替わったスーザン・シュワブ、こういう人たちが激しく譲れないと言っていたことが、そういう報道が聞こえてくるということは、正直言って我々としても注意深く情報収集しなければいけないというふうに思っております。
日本、とりわけ農業に関してはEU、もちろんG10が我々の同じ属するグループでありますけれども、EUあるいはインド等と、農業に関しては同じような立場のグループとよく連絡を取り合いながら、またアメリカのその報道の真偽についても今は非常に情報をよく集めて分析をしなければならない。日曜日からの交渉でございますので、耳をそばだてて、目をよく見開いて、世界じゅうでいろんな情報を集めて分析をして対策を考えて、状況がどうなっていくかということについていろんなことをこれから判断をしていかなければいけない大事な時期ではないのかなというふうに思っております。
○谷合正明君 アメリカの補助金の話が出ましたけれども、二百二十六億ドルだとかいろいろ数字が出たということで、今日もこのネット中継をアメリカの大使館の方が見ているかもしれないので何とも言えないんですが、年間で二百億ドルがアメリカの国内支持として大体出されているんじゃないかと言われますので、本当に痛みがあるのかどうかというのをしっかりと見極めながら、日本としては最終的には、今回の交渉で基本線というか最低守らなきゃいけない線というのがありますので、多様な農業の共存が可能になるように、つまり上限関税の断固阻止ということをしっかりとかち取っていただきたいと思うわけであります。
次に、このWTOの交渉が三年近く延び延びになってきたという中で、この交渉の長期化が一体日本農業にどういった影響を実際及ぼしてきたのかといったところについて、お考えがあれば教えていただきたいと思います。
○政府参考人(佐藤正典君) 今回のドーハ・ラウンドにつきましては、二〇〇一年の十一月から正式に立ち上がっておりまして、当時、二〇〇四年の末までに交渉を終結するというようなことがあったわけですが、それが何回か、例えば香港の会議でございますとか四月の閣僚会議でございますとか、委員御指摘のとおり延びてきたわけでございます。
この評価というのはなかなか難しいわけでございますけれども、一つには、国際的な農業をめぐる新しい秩序というのが不安定といいますか、決まらない状態にあると。もちろん、その結果が一番大事なわけでございますけれども、決まらないということで、いろいろな経営上の長期的な見通しをどういうふうに立てるのかというような問題が農家の経営にとってはあろうかというふうに思います。もちろん、先ほど申しましたように、交渉の結果が大事でございますので、日本農業に影響のできるだけないような形で委員御指摘のような上限関税の、入れさせないと、あるいは重要品目の適正な数の確保、それから適切な取扱いの確保等々につきまして力を用いて交渉してまいりたいと考えております。
○谷合正明君 それで、これも前提の話ですけれども、WTOの交渉が更に長期化する、あるいは決裂して二、三年延びると、あるいは凍結みたいなことになったときに、これがまた今後日本農業にもたらす影響というのはどういうようなものがあるんでしょうか。
○政府参考人(佐藤正典君) ただいまの御質問でございますけれども、私ども、先ほど大臣が申し上げましたように、今回の七月の交渉、これに大変期待をしておりまして、全力を挙げて交渉に参加してまいるつもりでおります。また、交渉に入るG6の国々につきましても大変高い意欲というものを持っておりまして、現在のところ期限内に交渉が妥結するように努力してまいるという考えでございます。
○谷合正明君 続いて、先に進みますが、EPAの交渉についてでございます。
EPAの交渉で、先ほども質問が出ましたが、このWTO交渉の凍結あるいは難航によりまして個別のEPA、FTAの流れが加速されてきたわけでございます。しかしながら、例外の多い二国間の貿易協定だけでは世界経済の健全な発展というのは望めないわけでございます。特に今回のドーハ・ラウンドというのは発展途上国の開発支援に光を当てた国際貿易体制の構築を目指してきたわけでございます。
かつて東アジアEPA構想が打ち出されたこともございますが、そのときは農林水産大臣が、農水省としてはEPAも積極的に行わなければならないけれども、次々と新しいものを行えばいいというものでは、事務的にも経済政策からいってもどうかと思うというような指摘もされているわけでございます。
ちょっと、大臣、今いらっしゃらないので飛ばしますが、EPAの交渉の進め方について先ほどお答えいただきましたが、今話題となっているのがオーストラリアとのEPAの交渉でございます。これはまだ共同研究というような段階かもしれませんが、これを、この共同研究を踏まえて交渉開始の是非を判断するということでございます。オーストラリアのような農業国についてはアジア各国と同じように論ずるわけにはいかないということは一目瞭然なわけでございますが、現在オーストラリアとの政府間の共同研究の状況、それとオーストラリアとの交渉開始についての農林水産省としての考え方を聞かせてください。
○政府参考人(佐藤正典君) お答え申し上げます。
委員御指摘のように、我が国にとりましてオーストラリアというのは米国、中国に続く第三位の農林水産物の輸出国でございます。輸入農林水産物の大半は牛肉とか小麦とか乳製品、砂糖といった我が国の農業や地域経済にとって大変重要な品目となっているところでございます。
豪州との間では昨年十一月から政府間の共同研究が行われているところでございます。この共同研究は、昨年四月に行われました首脳会談におきまして両首脳が農業の取扱いには非常に難しい問題があるとの認識を共有した上で、EPAのメリット、デメリットを含め両国の経済関係強化の在り方を政府間で研究していくことで一致したことを受けまして行っているものでございます。豪州とのEPAの交渉を行うか否かにつきましては、この共同研究の結果を踏まえまして判断をするということになっております。
いずれにいたしましても、我が国の農林水産業に悪影響が及ぶことのないよう、共同研究におきまして首脳間で共有した認識を踏まえまして農林水産物の取扱いにつきまして明確にする必要があるというふうに考えているところでございます。
○谷合正明君 もう一度WTOに戻しますが、国民の理解についてということについて質問いたします。
よくこの委員会でも大臣は、今回のWTO交渉というのは国民の後押し、国民の総意をもって交渉ができているとおっしゃっているわけでございます。外務省が平成十五年時点で、今から三年前でありますが、WTOに関する意識調査を行いました。このときは、このWTOのこの交渉について関心を持っている者、持っていない者というアンケートを取ったんですが、六三%の方が関心を持っていないというように答えております。
それから三年がたちましたけれども、国民の総意で交渉ができているという御答弁もあるんですが、最近のWTOの交渉について、国民のその理解がどのように変化してきたのかと、その辺りどう把握されているのか、質問させていただきたいと思います。
○国務大臣(中川昭一君) 確かに谷合委員おっしゃるように、今でも、WTOの仕事をやっていますとかWTOへ行きますと言うと、WHOと区別が付かないというようなことに出くわすことが時々あるわけで、その六十数%の方がよく分からないとおっしゃっているのは、今でもこのWTOそのものについてはそうだろうというふうに思います。しかし、連日WTOの報道がなされているわけでございますので、そういう意味では、今大詰めに来ているんだなという認識は多くの国民の方々に持っていただいていると思います。
私がよく申し上げますのは、私は、八六年から始まりまして九三年までやりましたが、前のウルグアイ・ラウンド、あの最後の段階を私もかかわっていた経験からの比較でございまして、あのときは私は党の農林部会長を最後やっておりました。あのときは、とにかく農林に関心のある与野党のはっきり言って一部の議員、それから農業関係者、それからごくごく一部の農業を研究されている専門家の先生方、それ以外の人たちは農業に関して無関心というよりも、むしろ、例えば当時の経済界の人たちは、何でタイの十倍、あるいはアメリカの七倍の米を無理やり我々は買わされなければいけないんだとか、そういう単に価格だけの比較優位論でもって、しかも農業というのは、ちょっと乱暴な言い方をすれば、国にがっちり守られて、制度面でもあるいはまた予算面でも守られて、そして水際を遮断をしているというのはけしからぬというのが当時の一般的な農業交渉に対する見方が多かった、そういう見方が多かったというふうに考えております。
その後、これはWTOとか我々が努力したというよりも、午前中も申し上げたと思いますが、自給率の問題に対する国民の不安、したがって関心の高さ、あるいは食の安全、安心、あるいは先ほど谷合委員もおっしゃいましたが、多様な農業の共存、あるいはその基となります自然条件の違いを守り、そしてみんなでそういうものを守っていこうという関心が高まって、急速に高まってきていると、ここ十年ぐらいの間に。それがWTOの交渉にとっては我々の立場として極めて大事な支えになってきたということが、ウルグアイ・ラウンド交渉のときと今回の交渉と全く違うわけであります。
私は、前回の農林水産大臣のときから定期的に消費者の代表の皆さん方と懇談する機会がございます。マスコミの皆さん方とも懇談する機会がありますけれども、特に消費者の皆さん方はそういった観点から自給率の問題、あるいは安全、安心の問題、あるいはフードマイレージの問題、地産地消の問題という観点から是非守るところはしっかり守っていただきたい、もちろん日本の生産サイドを御努力していただきたいということも要望いただきますけれども、日本の大切な国土、そして食料というものを守っていただきたいと、むしろ激励をいただく方が多いというようなことが私にとりましては大変有り難いことであり、また、したがいまして、何も一部の経済セクターのためにやっているのではなくて国民全体のために交渉に臨んでいるんだという責任の重さも痛感しているところでございます。
○谷合正明君 ウルグアイ・ラウンドの反省に基づいて、特に国民の後押しが大事だということで、それに取り組まれる大臣のお話を聞いて大変感銘というか、うれしく思ったわけでございます。
なお一層の情報公開というものをしていただきたいと。特に、このWTO交渉、分かりづらい面がございまして、それを逐一そのすべてを明らかにするということが情報公開につながるかというのは必ずしも言えないかもしれませんが、国民が関心を持っていただくようなアピールをしていただきたいと。
先ほどワールドカップの話が出ましたけれども、日本はワールドカップでは負けたけれどもWTOでは負けないと。中田頼みであったわけです、日本のサッカーは。それをもじって、今、中川頼みだと。ただ、ピッチ上であおむけになって倒れる中川大臣は見たくありませんので、是非勝っていただいて。そのためにはサポーターが必要だと、国民のサポートが必要でございますので、その広報活動をしっかりと充実していただきたいと思います。
次に、最後になるかもしれませんが、開発パッケージについてどういう支援を決めているのか、進めているのか、そこについて質問をいたします。
ドーハ・ラウンドは、ガットが先進国が中心となって行ってきた貿易自由化から一転して、これは開発支援に光を当てたものでございます。特に、世界の農業者の九割近くが発展途上国に住んでいると。そのうち五十八か国が世界で最も貧困な地域に住んでいて、三十億人以上の方がそういった地域に住んでいると。そういう地域では約半数の方が農業セクターに従事しているというような統計を出している学者もおります。
先ほど外務省のアンケートを出しましたが、国民の六割の方は先進国は途上国に配慮すべきというように答えておりまして、日本の国民性だと思いますけれども、そういう途上国配慮ということについては非常に理解のある国民性でございます。
日本としましても、昨年から開発イニシアティブの積極的展開を図ってまいりまして、例えばLDC、後発開発途上国の原則全産品に対する無税無枠の供与と併せて人材育成などを取り組んでいると思うんですが、そういった開発パッケージが今具体的にどう進んでいるのか、その点についてお伺いいたします。
○副大臣(三浦一水君) 我が国は、今回のWTOラウンドを通じまして途上国の開発を進め、自由貿易体制から更なる利益が得られることを目的に、昨年十二月、香港閣僚会議におきまして、小泉総理の指示の下、また中川大臣の強力なリーダーシップの下に途上国の生産現場から輸出先の食卓までの一連の流れを包括的に支援をいたします開発イニシアティブを打ち出したところでございます。
その内容としましては、LDCに対し原則無税無枠、九七%でありますが、その市場アクセスを供与していくこと。二番目に、今後三年間に貿易・生産・流通インフラ関連での、無償、有償を含めまして合計百億ドルの資金協力を行い、また、農林水産分野も含みます合計一万人の専門家などが盛り込まれております。
農林水産省としましては、開発途上国においては農林水産業の振興が極めて重要であると認識の下、開発イニシアティブを踏まえ、南南協力、いわゆる先発LDCから後発LDCに対する協力の支援でありますが、これらを通じました売れる農林水産物作りに向けた人材育成の支援やLDC産品に対します原則無税無枠の供与を行っていきたいと考えております。
○谷合正明君 時間が参りましたので終わりますが、いずれにしましても、WTOの交渉、日本のやはり主張を、多様な農業の共存、あるいは今、開発の支援もありましたが、市場原理だけでは片付けられない、外部性を包括したような市場主義経済というのも、やはりWTOの農業交渉の中にしっかりとその原理を働かせていくのが私は日本の責務だと思っておりますので、是非頑張っていただきたいと思います。
私の質問は終わります。