○谷合正明君
公明党の谷合正明です。
まず初めに、牛肉のトレーサビリティー制度について伺いたいと思います。
牛の耳に付ける個体識別番号を記しましたタグ、いわゆる耳標、耳と書きまして標本の標と書きまして耳標、その耳標の偽装事件について伺いたいと思います。
この耳標を別の牛に装着しまして品種や血統を偽って販売していたということで、昨年の十二月に北海道の畜産業者が逮捕されました。そして、昨日の十六日に、その釧路地裁で、北見支部で判決公判がございました。本件は、トレーサビリティー法が施行されてから初めて摘発されたというケースで非常に関心があるわけですが、まずこの経過と事実関係を簡潔に教えてください。
○政府参考人(中川坦君)
事実関係、簡単に申し上げますけれども、北海道におきまして、死亡した子牛から耳標を取り外し生存中の別の子牛に再装着をしたという事実が、昨年の九月の二十四日に、北海道農政事務所の検査によりまして明らかになりました。このため、その後様々な調査をいたしまして、十一月の二十四日に北海道農政事務所長が告発をいたしまして、十二月の七日には北海道警察で被疑者を逮捕し、翌日、釧路地方検察庁に送検をされたわけでございます。その後、本年一月十一日に起訴がされました。先生今おっしゃいましたように、三月の十六日に判決が言い渡されたということでございます。
○谷合正明君
その判決ですけれども、耳標付け替えの行為自体は認定したものの、その耳標が農林水産省令に適合しておらず、犯罪が証明できないとして無罪になりました。この耳標が省令に定めるところの耳標でないということですから、この案件はトレーサビリティー制度そのものの根幹を揺るがす大事件につながりかねないと私は思っております。
そこで、今後の対応について伺いますが、この耳標の取り外しの実験がされたときに、アプリケーターやペンチやプライヤーを使いまして、わずか十六秒で取り外しができて、更に再装着、牛の耳に装着できたと。再装着後も耳標としての機能を失わなかったというふうに聞いているわけですけれども、簡単に付け替えることができたということでありますが、この耳標の改良ということは今後どうされるんでしょうか。
○政府参考人(中川坦君)
本件で問題になりました耳標につきましては、我が国だけではなくてEUでも四割のシェアを誇っているというものでありまして、広く使われているという意味で高い信頼度を有しているというふうに私どもは考えております。
本件の内容、判決の内容につきましては詳細に検討する必要があるというふうに思っておりますけれども、耳標自体に大きな欠陥があったというふうには考えておりません。ですけれども、制度のより適正な実施のために、この耳標の構造の強化に努めていくということは大変大事なことだというふうに思っておりまして、既に昨年の九月ですけれども、この事件の違反事例、これが明らかになりました時点で、各製造メーカーに対しましてこの耳標の強化を検討するようにということで依頼をしてございます
○谷合正明君
その省令によりますと、耳標の構造は、第十一条の第一項第一号に「装着した後、容易に脱落しない構造であること」、そして第二号に「取り外した後、再び装着することができない構造であること」と規定されております。今回は再装着が、それが不完全再装着であろうとなかろうと、再装着できたという点について、私は構造上の欠陥、問題があるのではないかと思っております。
今回、改めて問いますが、タグの、耳標の構造上の欠陥についてどう思っているのか、また全国の牛のタグ、耳標を取り替えるようなことは考えているのか、お伺いします。
○政府参考人(中川坦君)
耳標の構造でございますけれども、容易に脱着しないということと、それから取り外した後に再び装着することができない構造、これはまあ、両方満たすということはなかなか技術的に、完璧にやるというのは難しい。その中で、これまでも耳標の強度その他については改善がなされてきたのは事実でございます。
ただ、これ、現状で満足するわけではなくて、こういった事件もあったということで、更なる改善ということでメーカーにもお願いをしているということでございます。
二点目の、今回のことを受けて、その他の付いているものについて取替えをするのかどうかという点でございますけれども、今まで申し上げてきましたように、既に国内だけではなくて海外でも広く使われているという、信頼度が高いというふうに思っておりますので、今すぐ、直ちに耳標をほかの牛のものについても付け替えるということは考えてございません。
○谷合正明君
今回、海外のオールフレックス社製の耳標が使われたわけでありますけれども、そのほか他社製の耳標でも取替えをしていたのではないかというふうに言われております。そういう意味では、私は、もう一度この耳標の構造について欠陥を認めていただいて、改良をしっかりと重ねていただきたいと思っております。そして、その構造上の欠陥、問題だけではなくて、システムそのものに問題があるのではないかというふうにも考えております。
そもそも、この制度は生産者の性善説に基づいております。耳標はすべて農水省が買い上げて家畜農家に配っているわけであります。その農家は、牛の出産前にあらかじめ配られたものを装着する際、公的機関の立会いがないと、そして耳標が脱落して損壊した場合は書類のみで再交付されるということだと聞いております。
私も畜産農家に伺いました。よく子牛に付いた耳標が引っ掛かったりして取れるということは聞いております。ということは、一頭の子牛で屠畜前の段階で耳標を取り替える、取り付ける回数が数回あるということでありますので、このトレーサビリティー制度の中でチェック体制というものも非常に、生産段階においてチェック体制は非常に重要だと思っております。
生産者が屠畜する前の段階においてそれをチェックできる仕組みはあるんでしょうか。
○政府参考人(中川坦君)
現在、我が国では約四百五十万頭の牛が飼われているわけでありますし、一年間に新たに生まれる牛の数というのも百四十万頭程度ございます。こういった新たに生まれたものについては耳標をその都度付けるということでありますし、また、点検という意味では移動のたびに報告がございますから、そういった届出のたびごとにつきましてもチェックをしていかなければいけないわけであります。
こういった耳標の装着その他につきまして職務を担当する職員、これは全国の農政事務所を始め約八百四十人の職員が配置をされておりまして、装着なりあるいは届出といったものが適正に実施されますように巡回指導あるいは立入検査というものを行っているわけでございます。
今回の事件を奇貨にいたしまして、一層の点検あるいは指導の充実を図ってまいりたいというふうに考えております。
○谷合正明君
それで、そのチェック体制なんですけれども、二月二十二日に酪農協同組合から組合員に通達が行っていたものがあるんです。その中に書かれているのが、耳標の届出についてエラーが数多く発生しており、適正な報告をするようにと書いてありました。特に、販売時等の転出の届出ができていないため、多くのエラーが発生していますと書いてあります。
多くのエラーというのは、私、数を承知していないんですけれども、事前通告していなかったですけれども、この多くというのはどのくらいの件数があるんですか。もし分からなければ結構です。
○政府参考人(中川坦君)
今、具体的な数字は持ち合わせておりませんけれども、私もこのデータ管理をしている会社の、白河にありますが、そこも視察をしたことがございますけれども、ファクスなり電話なりで、実際にエラーがあったものについての修正作業というのは大変な事務量になっているというのは承知いたしております。まあざっと、割合でいきまして一割程度、件数にして一割程度についての修正作業等があるというふうに聞いております。
〔委員長退席、理事岩永浩美君着席〕
○谷合正明君
一割という数は、私は、全国で四百五十万頭いる中で相当な数に上っていると思います。そういう意味で、この制度そのものを、特にこのチェック体制というのは見直すことが重要ではないかと私は考えております。特に、EUと違いまして、日本の場合は屠畜する前の段階でたくさんの中間業者がおりますので、転売する機会が多いと。それは、裏返しますと、偽装を生みやすい構造でもあるわけであります。
今回、トレーサビリティー法の目的は、屠畜後の偽装防止、生産段階でのBSEなどの伝染病蔓延防止の目的があるというふうに承知しておりますが、そもそもこの生産段階での偽装というのは想定していたんでしょうか。
○政府参考人(中川坦君)
御指摘の生産段階におきます耳標の付け替えにつきましては、この牛肉のトレーサビリティー法でも想定をいたしておりまして、耳標の取り外し等につきましては同法第十条第一項で禁止をしておりますし、それに違反しました場合には三十万円以下の罰金ということで罰則も措置されているところでございます。
○谷合正明君
農水省の北海道農政事務所が二月四日に、北海道の道内すべての酪農家、畜産農家を含む関係施設一万三千か所を対象とした立入検査を新年度に実施する方針を明らかにいたしました。耳標が適正に装着されているのか、子牛の出生届や移動届が適正かを調べるというふうに聞いております。
偽装する原因として、構造的な欠陥もそうですけれども、日本の場合、優良品種、血統が牛の価格を決める大きな要因でもあります。そういう意味ではこの検査というもの、非常に重要になってくると思いますが、北海道では大部分が乳牛と、ホルスタイン牛が大部分でありますので、実は和牛の方が、和牛の産地での方のこの偽装ということはもっと可能性があると、誘発される可能性が高いと私は考えております。
この案件を北海道の、遠く離れた北海道の一事件で終わらせるのか、そうじゃないのか。そもそもこのトレーサビリティー法の施行責任者として、トレーサビリティー法に基づく立入検査を全国展開する考えはありますか、大臣、よろしくお願いします。
○国務大臣(島村宜伸君)
お答えいたします。
今回の被告人の逮捕を受けまして、昨年十二月九日に、農家への巡回指導や立入検査時において耳標の装着の適正な実施について指導を徹底するよう全国の地方農政事務所に指示したところであり、北海道だけでなく、全国的に現在取り組んでいるところであります。
〔理事岩永浩美君退席、委員長着席〕
なお、御指摘のような牛を肥育する牛飼養農家ですね、牛飼養農家約十三万戸全戸の立入検査を直ちに実施することは困難でありますが、地域の実情を踏まえつつ、引き続き指導強化に努めてまいりたい、こう考えているところでございます。
一言だけ申し添えますが、実は私も今回の判決、ちょっと驚きまして、耳標を外したこと自体は余りとがめられないということがとても納得しにくいと、率直には感じます。ただ、これはやっぱり司法の言わば判断でありますから、それ以上言及することは遠慮しなきゃいけませんが、しかしながら、やはりこういう禁じられた行為をして、まあ三十キロぐらいの力で外せるそうですが、またこれが十キロぐらいで再装着ができると。しからば、なぜもっと強力なものと、委員と同じ私も疑念も持ちました。ただ問題は、余り強力なものをくっ付けますと、今度はそれが引っ掛かった場合に、今度は牛の生命を奪ってしまうというようなことで、いろいろそういうことが主張があるんだそうです。そこで、先行きに向けて鋭意検討するように命じたところであります。
○谷合正明君
いずれにしましても、この案件が氷山の一角、私はもっと本当に本格的に調べた方がいいんではないか、そのように考えております。
トレーサビリティー法は、先ほども申し上げましたけれども、家畜の伝染病蔓延防止という観点が強いわけでありますけれども、生産段階で偽装されると、なかなかこれを病気の原因追求ということができなくなるわけであります。そういう意味でもトレーサビリティー法の目的というのをしっかり果たせるように、この制度の検証というものが私は必要ではないかと思います。
いずれにしましても、こういった案件が消費者の目に留まりますと、国産牛肉の信頼にかかわる問題でありますので、国産牛肉の消費が落ち込んでしまうんではないか、極端な話でありますけれども。国内でBSE感染牛が見付かったとき、農水省の対応が遅れたという反省があります。実際、それによりまして消費が落ち込みました。
そういう意味で、今回、十二月一日に小売段階も含めてトレーサビリティー制度が施行されたわけでありますが、その施行された直後に逮捕されていると。そもそも、昨年の七月に事件が明るみになってから、九月に農林水産省がその畜産農家を立入検査するまで二か月たっていると。さらに、立入検査から十一月に告発をするまで二か月経過したわけであります。その結果、十二月七日に最初の逮捕ということが、承知しているわけでありますけれども、これまでの対応について、大臣、率直にどのように思われておりますか。
○国務大臣(島村宜伸君)
この制度の根幹を揺るがすものでありますから、これはもう厳重に言わばこれからもチェックをしなきゃいけないと思いますし、私は、自分が就任したときにも、一切の不正を許さないと。私が率先してやるけれども、それに対しての同情の余地はないので、言わば粛々と仕事に取り組んでもらうと言っておるわけですが、こういう問題に至るまで、やはり規則は規則でありますから、善意な、言わばその規則をきちっと守れる方々の立場を守る意味からしても、我々は正邪をきちっと判断し、それに対して指導を徹底していくことが必要だ、こう考えます。
○谷合正明君
その制度に欠陥があるということと対応が遅れてしまうということが重なりますと、消費者の食の安心という部分が一気に崩壊しかねない問題だと私は思います。アメリカ産の輸入牛肉を再開するかどうか、言える立場にもないということも一面感じております。そういう意味で、大きな影響がもたらされる前にしかるべき対応を取るべきだと私は訴えたいと思います。
その判決では、今回の判決では、牛の履歴管理制度に対する信頼が損なわれたのは、この制度が信頼される基盤であり、農林水産省令で取り外した後再び装着することができない構造であると定められ、一般にそのように信じられていた耳標が実際には容易に付け替えられた、付け替えられるものであった上、当初からそのことが看過されていたという、言わば裸の王様のような事態であったことにもよると厳しい指摘があります。
今回無罪になったということで、実際にその使われていた耳標が省令に定めるところの耳標ではないということになります。それは、ともするとトレーサビリティー制度そのものが成り立たなくなるのではないかと。この点、このトレーサビリティー制度そのものの見直し、検証について、大臣、どのように考えていらっしゃいますか。
○国務大臣(島村宜伸君)
谷合委員の御指摘、誠にごもっともだと思います。
しかも、この農林水産省令自身にも、再び装着することができない構造と、こうなっているわけですから、それが現実にできるということですし、私が確認した範囲では、何か十キログラムぐらいの力で再装着ができると。やっぱりそういうことが、この事件が起きて分かったのかどうか私には分かりませんが、やっぱりこれらについては正に過ちて改めざる、これは過ちていますんで、早急にこれらに対する対策を徹底するように指示をしたいと思います。
○谷合正明君
今回捕まったその畜産業者は、この畜産、まあ家畜商というのはだましだまされの世界だというふうに新聞紙上でコメントが載っておりました。
そういう意味で、そういうのを聞きますと、消費者にとって何を信頼していいのかということになってきます。その消費者重視の農政ということでありますから、これは本当に大事だと思いますが、消費者の信頼維持を果たすべく、今後、農水省としてどういう対応をされるのか、もう一度大臣にお伺いします。
○国務大臣(島村宜伸君)
やはりこのトレーサビリティー法の意義といいますか、言わばこれに対する社会的な責務といいますか、こういうことについて趣旨を徹底することは当然でありますし、また裁判の結果でも指摘されているようなこういう問題が二度と指摘されることのないように、言わば内容の改善、それはその装置そのものですね、強度の問題その他もありましょうが、先行きに向けて、こういうトレーサビリティー制度自身が言わば社会から疎んじられるといいましょうか、誤解を受けるようなことがないように指示を徹底したいと思います。
○谷合正明君
十二月一日から始まったわけでありますので、本当にこの制度そのものはしっかりとしていただきたいと思います。
まだ、消費者自身が、例えば個体識別番号を実際に店頭に行ってチェックして確認するという、まあ数はそう多くないと聞いています。むしろ業者が使っていると。そうはいいましても、消費者の目がしっかり生産農家まで行っていますので、本当に、世界の中でも本当に誇るべきこのトレーサビリティー制度をつくっていく責任が農水省にあると私は断言をいたします。
それで、畜産物の価格安定に関する件ということで最後に質問をいたしますが、話題が変わります、牛乳の国内需要ですね、牛乳の国内需要について伺います。
最近は、いろいろ、豆乳だとかお茶とかいった飲料水の競合もありまして、牛乳全体の消費量も減少傾向にございます。ただ一方、牛乳は、御承知のとおり、カルシウムの人体への吸収がほかの食品より優れるなど、栄養面において優れていると。特に最近では、ラクトフェリンですか、ラクトフェリン、これが薬として非常に有効であるということも分かり始めました。そういう意味では、牛乳の研究開発もすごく進んでおりまして、厚生労働大臣の許可を受けて特定保健用食品の表示をしている食品には牛乳由来の成分が含まれているものも多くあるということでありますが、今後、この牛乳の国内需要を伸ばしていくために、これまでの枠にとらわれない様々な用途に牛乳を有効に活用していくためには、牛乳に関する研究、そして研究開発を積極的に推進していくべきだと思いますが、この点につきまして、常田副大臣の御所見を伺いたいと思います。
○副大臣(常田享詳君)
私も薬剤師でありますので、大変この分野には興味を持っているわけでありますけれども、今、委員御指摘のとおり、牛乳・乳製品の需要を拡大していくためには、消費者に対して、カルシウムや各種機能成分に富む牛乳の良さをアピールしなければならない。今、委員からラクトフェリンのお話がありましたけれども、これは生乳中に含まれる微量アミノ酸でありますけれども、大変これが細菌に対する抑制力もあり、免疫力も高めるというようなことで、がんの予防になるんじゃないかというふうなところの研究も今されているというふうに聞いております。
また、カゼインホスホペプチド、牛乳中のたんぱく質の一種のカゼインからできる物質でありますけれども、これなんかも腸内でのカルシウムの吸収を非常に高めるということで、牛乳は四〇%、カルシウム吸収率がですね、小魚が三三%、野菜一九%というようなことで、大変吸収力を高める、こういう効果があるというふうに言われております。
珍しいところでは、先般、去年、副大臣になる前に台湾に行きましたら、北海道のナガイモが大変愛され、消費されているわけですけれども、そのナガイモと牛乳を混ぜて、大量に台湾の方々に飲まれているんですね。駅の売店なんかに、日本の生ジュースと同じように、ナガイモと牛乳を混ぜて飲んで、それで非常に台湾の方々の毎日の健康増進に役立っているという、大量消費されているという話を聞きました。こういった面も国内でも生かせるでありましょうし、ナガイモに牛乳を付けて台湾に売れないのかなという、委員長、御提案を申し上げたいと思うんですけれども、そういうようなこともありました。
そういうようなことで、従来から牛乳・乳製品の機能成分に関する調査研究、それから新商品の開発支援、これは国産生乳需要拡大定着化事業ということで十一億六千万円等の事業費で二分の一補助をしているところでありますが、機能性を強化したヨーグルト飲料など、既にこれらの事業で新製品の開発、販売がされているところであります。
引き続き、牛乳・乳製品の機能性に関する研究開発を進めるとともに、それを活用した商品化を大いに支援してまいりたいというふうに思っております。
以上でございます。
○谷合正明君
終わります