2023年08月04日 3面
金融機関の口座に長期間放置された休眠預金(メモ)を公益活動を担うNPO法人の資金などに生かす「休眠預金活用法」が先の通常国会で議員立法により改正され、その使途が広がる。休眠預金を財源に、社会的課題の解決に挑む新興企業(インパクトスタートアップ)にも出資ができるようになる。これまでの活用事例とともに紹介する。
毎年1400億円ほど発生する休眠預金は現在、金融機関から預金保険機構に移管され、一部が日本民間公益活動連携機構(JANPIA)を経て、子ども・若者支援や地域活性化などの事業を掲げる資金分配団体に交付されている。そこから現場で活動するNPO法人などの実行団体へ助成される。
成立した改正休眠預金活用法により、こうした「助成」に限られていた公益活動への資金の提供方法に、株式購入による「出資」が追加される。
近年、医療・福祉や教育・子育て、環境などの分野で公益性の高い事業を行うインパクトスタートアップは国内でも広がりつつあるが、資金調達に難航する場合もある。そこで、JANPIAから出資を受けたファンド(基金)などが、こうした新興企業に1社当たり数千万円規模の出資ができるようにする。
インパクトスタートアップの一つで、ネット上で支援を募るクラウドファンディングサービスなどを提供する「READYFOR株式会社」は改正法を歓迎している。同社の基金開発・公共政策責任者の市川衛氏は「資金調達の選択肢を広げることは、社会課題の解決をめざす民間団体の裾野を広げる」と評価する。
■目的に「育成」明記
また、改正法は法律の目的に、公益活動の担い手となる民間団体の「育成」を明記。運営が不安定な民間団体も少なくないことを踏まえ、バックアップしていく「活動支援団体」も創設する。
同団体では、休眠預金を財源に、人材紹介やノウハウを含む情報面のサポートを専門に行う。
内閣府の担当者は「改正法を早ければ年内にも施行し、それに基づく事業を2024年度から実施したい」と語る。
■公明、一貫して推進
休眠預金の活用に向け、公明党は一貫して推進してきた。14年11月には、党内にプロジェクトチームを設置し、超党派の議員連盟による休眠預金活用法(議員立法)の取りまとめと制定をリードした。
今回の法改正を巡っても、公明党は超党派議連の中で、資金調達の多様化や人材・情報面からの非資金的支援の重要性などを訴え、力強く後押し。超党派議連で幹事を務める谷合正明・党参院幹事長は「休眠預金を社会に役立てていくため、改正法の円滑な施行へ尽力したい」と話す。
■産後ママ応援、災害時の連携など多彩な事業支える
休眠預金による助成は2022年度までに累計221億円(予定額)に上る。助成を受けた公益活動を行う団体(実行団体)は延べ966団体(今年4月時点)に達し、多彩な事業に活用されている。
例えば、プラスチックごみ削減に向けリユース食器のレンタル事業を行うNPO法人「スペースふう」(山梨県富士川町)は、休眠預金の助成を受け、21年秋より、孤立しやすい産後の母親らに弁当を届け、つながりをつくる事業を実施する。
町内の母親らは100円で、地元産の食材を生かした弁当をLINEで注文できる。配達の際、スタッフと交わす会話が息抜きとなり、「赤ちゃんのお世話で気持ちに余裕がない時期に来てもらえて良かった」という声が多い。長池伸子事務局長は「休眠預金の助成のおかげで、事業を始められた」と感謝する。
NPO法人「岡山NPOセンター」(岡山市)は、災害時に被災地支援を行う行政や社会福祉協議会、NPO、企業、各種団体が情報共有するシステムの開発を、21年度から休眠預金を使って取り組む。ネット上の地図に表示される各避難所などに、ボランティア活動期間や支援内容も登録できる仕様で、今春に試作品が完成。佐賀県や秋田県の豪雨被害で試験運用している。石原達也代表理事は「開発には多額の費用が必要だが、休眠預金のおかげで着手できた」と語る。