超党派のLGBT議連の事務局長を務める私は、4月13日の議連役員会を終えて、自分のTwitterで「各党責任者出席のもと、LGBT議員連盟の役員会を開きました。理解増進法案、差別解消法案について、また性同一性障害特例法の見直しについて、今後の議論の進め方を確認。次は議連総会を開催していきます。事務局長として、与野党での協議を尽くして合意形成に努めます。」(4月13日付)とツイートしました。
すると、「『性同一性障害特例法の見直し』とは、性別適合手術ナシで戸籍上の性別を変えられるようにするということ。つまり、男性の体のまま法的な女性になれて、女湯や女子トイレに入れるということ。私たちは警鐘を鳴らし続けましたがが、耳を傾けてくれる人は少なく、ついに、実現直前まで来てしまいました。」というコメント付きのリツイートがなされ、それをもとに多くの同様の反応がありました。
そこで私は、「特例法の見直しには、年齢要件、非婚要件、未成年の子なし要件、手術要件、ICDに沿った名称のあり方といった論点があり、昨日は未成年の子なし要件の排除の法的な影響について法務省の見解を確認した次第。」(4月14日付)と改めてツイートしました。
以上が私の発信です。
まず、事実関係を改めて申し上げると、議連役員会で特例法に関して議論したのは、未成年の子なし要件を削除した場合の法的影響の有無です。次回の議連総会で社会的影響について識者から伺うことを確認しました。役員会では、手術要件の見直しをすると決めたことはありません。性別の定義変更の議論を始めたこともありません。
性同一性障害特例法(平成15年7月成立、同20年6月改正)は、戸籍上の性別変更の審判に際して、必要な要件を定めています。それが、年齢要件、非婚要件、未成年の子なし要件、手術要件です。
法律の付則の検討項目には、「性別の取扱いの変更の審判の請求をすることができる性同一性障害者の範囲その他性別の取扱いの変更の審判の制度については、この法律の施行後三年を目途として、この法律の施行の状況、性同一性障害者等を取り巻く社会的環境の変化等を勘案して検討が加えられ」とあり、これらの要件の扱いをどうするかは、法制定時からある論点そのものです。
法律は2度改正されました。平成20年(2008年)に子なし要件が「現に子がいないこと」から「現に未成年の子がいないこと」に変更し、平成30年(2018年)に民法改正に合わせ年齢要件が「20歳以上」から「18歳以上」に変更されました。「性同一性障害」の名称についても、改正特例法の成立後に更新されたICD‐11では「性別不合(仮訳)」とされており、いずれ見直しの論点となると考えています。
複数の論点があって、その中で未成年の子なし要件を議連役員会では具体的に議論したのですが、どの要件にしても、立法府として、法的かつ社会的な影響がどうなのかを丁寧に議論していかなければならないのは言うまでもありません。
次に、LGBT全般にかかわる法整備に関しては、与党側の理解増進法案と野党側の差別解消法案について、次回の議連総会に向けて、与野党協議を進めていくことを確認しました。
協議の中では、Gender Identityの訳として法文上「性自認」を使うのか「性同一性」を使うかを確かに議論しています。公明党性的指向と性自認に関するPT座長として、法律上も「性自認」を使うのが相応しいと考えます。現在協議中ですので、もう少し見守っていただければと思います。
なお、これまで国会答弁、行政文書、教科書、自治体条例等では「性自認」を使用しています。
例えば、2019年3月の参議院予算委員会での総理答弁では「性的指向、性自認に関する理解の欠如に基づく偏見や不適切な取り扱いを受けるなど、社会の中で様々な困難に直面している方々がおられるものと認識をしています。もとより、社会のいかなる場面においても、性的マイノリティの方々に対する不当な差別や偏見はあってはなりません。」(公明党議員の質問に対する安倍総理答弁)としています。
また厚生労働省委託事業による2020年3月発行の「多様な人材が活躍できる職場環境に関する企業の事例集~性的マイノリティに関する取組事例~」でも「性自認」を使用しています。厚生労働省が性的指向、性自認に関し実施した初めての調査でもあるので、担当者とやりとりし、「性的指向とは」、「性自認とは」という基本的な説明を載せてもらうようにしました。
そこには、「性自認とは、自己の性別についての認識のことをいう。生物学的・身体的な性、出生時の戸籍上の性と、性自認が一致しない人をトランスジェンダーという。(中略)トランスジェンダーの人の自身の性別や身体との向き合い方は様々であり、医療機関を受診するか、性別適合について外科手術を希望するか、戸籍の変更を希望するかも様々である。また、こうした医学的な方法や戸籍変更を希望していても、周囲の理解が得られなかったり、健康状態や経済的な理由から、希望を叶えられなかったりする人もいる」とされています。
多様なトランスジェンダーの方々への理解の欠如による偏見がうまれないよう、法整備を進めていく所存です。
総理答弁にあるよう性的マイノリティの方々に対する不当な差別や偏見はあってはなりません。しかし、総理答弁や行政文書だけでは前に進まない課題があります。我が国にLGBTに関する法整備が必要です。行政府も立法府の動きを注視しています。分断ではなく協調を旨に、与野党の合意形成に粘り強く取り組んでまいります。
参議院議員 谷合正明
(2021年5月2日)