【IWC脱退、商業捕鯨再開の決定を支持】
政府は12月25日の閣議でIWCからの脱退と商業捕鯨再開を決定。26日、菅官房長官の記者会見で談話を公表。私自身、本年9月のブラジルでのIWC総会に、農林水産副大臣として出席し、政府を代表して外交交渉にあたってきた。この度の政府の決定を支持する。
【商業捕鯨再開は、政府、国会の共通の目標】
捕鯨に関する政府の基本姿勢は、「鯨類は重要な食糧資源であり、他の海洋生物資源同様に科学的根拠に基づき持続的に利用すべき。また食習慣・食文化・鯨類の利用の多様性は尊重されるべき、との基本認識に基づき、一時的に停止されている商業捕鯨の再開を目指すべき」というもの。
商業捕鯨の再開を目指すことは、基本的にすべての政党が全会一致で採択した議員立法「商業捕鯨の実施等のための鯨類科学調査の実施に関する法律」(2017年)でも確認されている。
商業捕鯨の早期再開は、立法府、行政府の共通の目標であり、一体となって取り組んできたもの。
【海洋資源の保護と持続可能な利用があるべき姿】
1948年に設立されたIWC(国際捕鯨委員会)の目的は、「鯨資源の保存及び捕鯨産業の秩序ある発展(持続的利用)を図ること」である。
持続可能な開発目標(SDGs)の目標14は、「海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用する」となっている。これは国連総会で全会一致により採択されたものである。
海洋資源について、保護と持続可能な利用を図るというのが、国際社会で合意されてきたことである。
鯨類も他の海洋生物資源同様に科学的根拠に基づき持続的に利用すべきである。
【IWCが資源管理機関としての機能を果たせなくなった】
IWCは持続的利用支持国と反捕鯨国が対立し、資源管理の意思決定が行えない状況である。拘束力のない宣言は多数決により決まるが、資源管理に関する附表修正などは、4分の3以上の賛成票が必要で、商業捕鯨モラトリアム決定以降、保護と利用のいずれも有効な決定できない状態が続いている。
機能不全の根本が鯨類の利用に対する立場の違いにある。反捕鯨国の政府代表団は環境保護、動物愛護を所管する環境省主体であり、持続的利用支持国の政府代表団は水産政策を所管する水産省主体である。
【異なる立場や考え方が共存する可能性も否定】
本年9月のブラジルでの総会で、日本政府は、総会の可決要件を緩和するなど持続的利用支持国と反捕鯨国の共存を図る内容のIWC改革案を提案したが、否決された。
反捕鯨国側からは以下の主張があった。
「IWCは保護のみを目的に進化している」、「先住民捕鯨と商業捕鯨は異なり、商業捕鯨は一切認められない」
当時副大臣として、以下を表明
1 IWCにおいて異なる立場を有する締約国が共存する可能性が否定されたことと同義であり、遺憾。
2 今後もIWCと国際捕鯨取締条約の目的を実現すべく、様々な形で協力していきたい
3 IWCが一切の商業捕鯨を認めず、異なる立場や考え方が共存する可能性すらないのであれば、日本はIWC締約国としての立場の根本的な見直しを行わなければならず、あらゆるオプションを精査せざるを得ない
一方、ブラジルなど反捕鯨国が主導した、商業捕鯨モラトリアム継続の重要性を確認し、致死的調査は不要とする内容のフロリアノポリス宣言が採択された。
日本はモラトリアム決定以降、30年近く商業捕鯨を再開するための調査捕鯨を通じるなどしてIWCの目的達成のため尽力してきたが、IWCは資源管理機関として機能不全状態が続いてきた上に、今回のブラジルでの総会で、異なる立場や考え方の共存まで否定されたことが、今この時に脱退を決断する大きな理由である。
【国際的な資源管理への協力と、新たな枠組みの構築へ】
今回、IWCからの脱退を決定した。IWCは、過去、カナダなどのべ22カ国が脱退し、現加盟国のうちノルウェー、アイスランドなど12カ国が脱退後に再加盟をしている。カナダは脱退しているもののオブザーバー参加をしている。
今後、政府としては、南極海・南半球での調査捕鯨を行わず、我が国領海及びEEZ内で商業捕鯨を再開する方針である。脱退通告から実際の脱退までは半年間の期間がある。
国連海洋法上、国際機関を通じての捕鯨が求められており、7月の商業捕鯨再開までに国際的枠組みを再構築する必要がある。
政府は、脱退後もIWCへのオブザーバー参加を表明し、IWCが本来の機能を回復するよう取り組むとしている。特に科学委員会での日本の引き続きの協力が求められる。
持続的利用支持国との連携強化や、NAMMCO(北大西洋海産哺乳動物委員会:アイスランド、ノルウェー、グリーンランド自治政府、フェロー自治政府)といった別の資源管理機関との連携も必要不可欠と考える。
商業捕鯨の対象鯨種や捕獲量についても、IWC科学委員会が開発したRMPという算式に基づき今後も実施する方針である。IWCを脱退したら、乱獲が始まるという誤解を解く必要がある。
【持続的利用支持国、反捕鯨国、国民、国会への説明】
ブラジルで、持続的利用支持国と反捕鯨国との間で、2国間交渉、多国間交渉にあたってきたが、我が国は基本的に全ての国と強固で良好な外交関係があること、捕鯨に関して対立していたとしてもそれが外交全般に影響を与えるべきものでないことは、双方共通していた。
持続的利用支持国だけでなく、反捕鯨国またその国内世論に対しても丁寧に日本の立場を説明すべきである。
この度の決定について、当然、我が国の国会、国民に対して説明責任が求められる。
【商業捕鯨再開への支援】
30年ぶりの再開となる商業捕鯨である。調査捕鯨と商業捕鯨は大きく異なる。円滑な施行に向け、適切な支援が必要である。