○谷合正明君 公明党の谷合です。
まず、私の方からは、日本の航空機産業の現状と課題について伺っていきたいと思います。
国内の航空機産業の生産額は、近年一兆円を上回る額で推移をしております。これを更なる発展を遂げさせていくためにも、基幹産業の一つと位置付けて、腰を据えた育成策というのが欠かせないと考えております。
一方、世界に目を転じますと、新造旅客機の市場というのが今後二十年間で現在の二倍近い四兆ドル、四百兆円に拡大すると予測されておりまして、特に最大の成長市場というのはアジア太平洋地域であります。この拡大する需要を戦略的に取り込むことが日本経済にとって何より重要だと思います。裾野が広くて技術波及効果の高い航空機産業というのは、まさに私は産業競争力を付けなければならない分野であると考えております。
午前中も伊丹参考人からも、産業競争力の三つの基本ということで、一つは複雑性産業を後押しすると。複雑性産業というのは、複雑性機械、複雑性素材、複雑性システム、そういったものが含まれている産業と定義されておりましたが、そういった産業を後押ししていくものであると。二つ目は、国際競争力のある企業を誕生させると。三つ目は、既存の産業秩序への挑戦者を生み出していくということで言及がございまして、まさに航空機産業の現状を表しているのではないかなと思っております。
日本の航空機産業を俯瞰いたしますと、産業規模は国内の機械工業の一%程度でございます。その生産高というか生産額は米国の十分の一、またカナダの二分の一程度しかないということでございまして、機体やエンジンについては生産額、輸出額共に拡大傾向にあるものの、システム関係とか室内装備という装備品については伸び悩んでいる現状が見て取れます。
ここで大臣に伺いますが、こうした航空機産業の現状と課題についての認識と、航空機産業が自動車や電機に次ぐ次世代産業となり得るのかと、そうした可能性ですね、これから各国もしのぎを削ってこの分野に入ってこようと考えているわけでありますが、こうした可能性について、まず経済産業大臣の見解を伺いたいと思います。
○国務大臣(茂木敏充君) 委員の御地元には日本エアロフォージと、極めて優れた航空機の部品メーカーもあるわけでありますけれども、航空機産業、飛行中の厳しい環境の下で高い安全性を確保しながら、部品点数でいいますと大体三百万点ということですから、車の部品点数三万点の百倍ということになるわけですね。この多くの部品を経済効率性を追求しながら高度に統合していくという産業であります。また、素材そして電子制御システムなど、先端の技術を投入して幅広い裾野の産業の実力を結集することから、ほかの産業への波及効果も極めて大きい、そして付加価値の高い産業であると考えております。主要国では、こういったこともあって、この航空機産業、国家的な戦略産業と位置付け、しのぎを削っているものと認識をいたしております。
そして、世界の航空機産業、これから大きく成長することが予想されておりまして、今後二十年間、アジア等々を中心にしながら需要も伸びて二倍程度になっていくと、このようなわけであります。こうした世界市場の拡大の中で、日本の航空機産業、欧米と比べて後発であるものの、機体やエンジンの海外完成機メーカーとの国際共同開発で大きな成果を上げていると考えております。
例えば、ボーイングの787、ここには、炭素繊維複合材の技術の強みを生かして、機体の三五%の製造を我が国の企業が受け持っております。かなり実力を備えてきておりますし、ポテンシャルも高いと思っております。さらには、従来の部品供給の立場からより高いレベルでのシステムの設計、開発への展開が重要でありまして、MRJ、こういった完成機の開発、そのための先駆的な取組でありまして、必ず成功させていきたい、こんなふうに考えております。
あわせて、次世代の耐熱ニッケル合金などの高機能な金属材料や炭化珪素繊維を使ったセラミック複合材の開発を進めて、日本の強みを更に伸ばすことが必要であると考えております。また、物づくりを支える中小企業の底力も活用できる分野であると考えております。
自動車産業、電機と比べますと、今、事業規模で四十対一、五十対一と、こういうところでありますが、我が国の基幹産業に成長するよう、今後とも戦略的に取り組んでいきたいと考えております。
○谷合正明君 大臣の方から、決意も含めて御答弁いただきました。また、冒頭、岡山の日本エアロフォージ社についても言及していただきました。
実は、私は今日この質問をなぜ取り上げたかというのは、まさにその岡山の水島工業地域に二〇一一年に設立されて今年竣工されましたこのエアロフォージを視察しまして、現状を聞いてきたと。それで、また、今審議中の産業競争力強化法がどのようにこの航空機産業に役立てることができるのかという観点で視察をしてきたものですから取り上げた次第でございます。
現地に行って私も認識を新たにしたわけでありますが、実は航空機産業で、我が国のいわゆる航空機産業のサプライチェーンというんでしょうかね、全体を見渡したときに、一貫生産できない部品があるということに気付いたと。それは何かというと、最新鋭機に不可欠と言われるチタンとか軽量かつ高強度な性質の、チタンですけれども、大型チタン材を成形できるプレス機が我が国国内にないんだと。鍛造工程が欠落しているので、これまではロシアやフランスから加工済みのチタン材を輸入してきたというのが実情であったということを私も初めて学んだわけであります。要するに、サプライチェーンが欠落しているわけでありますから、なかなか産業規模としてもこれまで大きく欧米に比べて見劣りしていたという課題も聞いてまいりました。
今お話しさせていただいたとおりなんですけれども、我が国でのこの大型チタン材国産化の実現に向けていよいよ第一歩を踏み出してきたわけでありますが、こうした我が国に欠けていた加工工程、サプライチェーンを持続的、安定的なものに構築していくということは非常に重要だと思っておりますが、本法律案で盛り込まれている支援措置やほかの支援策を活用して国としてどのような後押しをしていくことができると考えられるのか、経済産業省の認識を伺いたいと思います。
○政府参考人(宮川正君) 今委員御指摘のように、このチタン材でございますけれども、確かに大型のプレス鍛造工程というところが国内になかったために、結果的に海外から持ってくると、こういうことでございまして、日本の産業にとっても弱みになっておりました。こういうことで、先ほど委員からの御指摘のとおり、支援策を導入をいたしまして、日本エアロフォージの方に対しましても設備導入を図ったと、こういうことによりまして、大型のプレス鍛造工程が日本でもできるようになったと、こういうことでございます。
こういうことで、国内に一貫したサプライチェーンを構築することが可能となりまして、品質面やコスト面での競争力が高まります。また、例えばチタン材を使用した航空機部品の受注の拡大、こういったところも期待ができるわけでございまして、そのための攻めの設備投資の増加も期待ができます。今回、本法案のところで紹介されております設備投資減税、こういうことを大いに活用いたしまして、前向きな設備投資が強く後押しされることを我々も大いに期待をしております。
引き続き、サプライチェーンの強化に向けて取り組んでまいりたいと考えております。
○谷合正明君 分かりました。
もう一つ課題として聞いてまいりましたことは、それは航空機用素材に関する国内データベースの構築が必要だということでございました。と申しますのも、アメリカにおきましては、これはアメリカと単純に比較できないわけでありますが、アメリカでは既に空軍を中心とした航空機用素材のデータベースが確立されていて、各企業がこれを利用して効率的な開発、試作が可能になっていると伺ってまいりました。我が国といたしましても、そうしたデータベースの蓄積であるとか、データベースの蓄積に必要となるシミュレーターの構築が求められるのではないかなと私は思いました。
ただ、こうした航空機用素材に関するデータというのは企業秘密みたいなところもあると思いますので、なかなかデータベースの構築というのは難しいとは思うんですが、しかしながら、産業競争力の強化という観点を踏まえますと、国が主導して国内のデータベースを産官学連携しながら構築していく必要があるのではないかと思うんですが、この点についての見解を求めたいと思います。
○政府参考人(宮川正君) 現在、民間航空機の点でございますが、この材料に関しますデータの保有者は大学、研究機関、それから航空機産業、まあメーカーそのもの、そして行政機関としては、当省のほか、文部科学省、国土交通省、こういったところが想定をされます。
確かに、御指摘のとおり、知的財産の観点から整理すべき課題はございますけれども、国が行っている航空機関連の研究開発データ、こういったものを中心に競争力強化に役立つような情報を集約することは有用であるというふうに思っております。どういう情報が集約可能で、かつ効果があるか、また集約の方法につきまして関係省庁、関係機関と大いに議論してまいりたいと、かように考えております。
○谷合正明君 是非、大いに議論していただいて、また結果を御報告いただきたいと思います。
もう一つ質問させていただきたいことは、それは航空機関連認証の取得促進のことでございます。
先ほど大臣の方から、航空機の部品点数が三百万点であると、これは自動車の百倍という話がありまして、これは裾野が広いので中小企業にとってみたら言わば魅力的な産業であるという話もございました。
実際、岡山県におきましても共同受注グループウイングウィン岡山というのも今誕生しているわけでありますが、ただ、航空機というのは、大臣も触れられたとおり、飛行の安全の確保などの観点から多くの部材に対して非常に高い精度と厳格な品質管理、また品質保証が求められております。日本工業規格の品質マネジメントシステムでありますJISQ9100やNadcapを取得する必要があります。さらには、これらに加えて機体メーカー各社、欧米の機体メーカー各社の固有の要求も満たさなければならないということで、なかなかこれが参入障壁となりかねない状態になっております。
そこで、我が国の航空機産業におけるサプライチェーンの強化のためにも、また中小企業がしっかり参入していくためにも、意欲ある企業の取組に対して国として参入に必要となる認証の取得促進に向けたより一層の支援を行う必要があるのではないかと考えますが、経済産業省の見解を伺いたいと思います。
○政府参考人(宮川正君) 委員御指摘のとおり、航空機は非常に高い品質を要求されておりまして、これは他の産業に比べても非常に高いものがございます。御指摘のとおり、JISQ9100またNadcap、こういった国際的な認証の取得も必要となってまいります。航空機分野に新たに参入いたします中小企業、ここではこうした認証の取得が参入のハードルとなっている面があると私どもも考えております。こういったことで、国際認証の取得に向けた業界経験者の長期派遣、また認証取得を支援する体制の構築、こういうことを現在検討しております。
また、企業立地促進法に基づきまして助成金を出しておるんですけれども、飯田市、ここの方ではこの取得のための研修制度も行っておりまして、こういったところで地域に向けた支援というのも私どもしっかりとやらさせていただきたいと、かように考えております。
○谷合正明君 是非きめ細やかに支援、対応していただきたいと思います。
先ほど鍛造工程の誕生という話をさせていただきましたが、これがいわゆるサプライチェーンができますと、今度は何が必要になるかというと、希少金属の国内リサイクル体制の構築というものが必要になってまいります。
チタン材などの希少金属については、鍛造工程以降の工程で素材の約七割が加工くずとして発生しているというふうに私は勉強させていただきました。ですから、ほとんどは加工くずになってしまうんですが、しかしこれは全くくずではなくて、宝の山でございまして、基本的にはロシアであるとかフランスなんかはそれをしっかりリサイクルとして活用しているということを伺ってまいりました。
そこで、現状では国内のリサイクルの流れがうまく確立していないのではないかなという懸念を持っています。先ほど申し上げたとおり、チタン材の国内一貫生産体制の整備によりまして各工程のネットワークが構築されることから、希少金属の国内でのリサイクルが可能になるのではないかと期待されますので、国内リサイクルの現状及び今後国としてどのような対応を取るのか、経済産業省の見解を伺いたいと思います。
○政府参考人(宮川正君) まず、現状でございますけれども、委員が御指摘されましたように、これまで大量のスクラップが発生してまいったのは、これは海外で鍛造プロセスがございますので、そしてまた、実際にはチタンのメーカーというのはアメリカに依拠しておりましたので、そういう意味ではリサイクルをしてもこれはアメリカのところに戻っていってしまうと、こういうことでございまして、国内でのリサイクルは困難であったというふうに認識をしております。
ただ、今回、先ほどちょっと冒頭申し上げましたように、平成二十二年の補正予算におきまして日本エアロフォージに対しましても大型鍛造のできる設備を導入をいたしまして、まさにこの十月の三十一日には初出荷と、こういうところまで行っておるところでございます。さらに、上流のチタンメーカーに対しましても、チタン合金のスクラップを原料とするための様々な必要となる粉末制御技術、こういったことに対しましても当省として開発支援をやっております。
こういうことでございまして、今後、素材メーカーまた加工メーカーとも協力しまして、国内でチタンのリサイクルが促進されるように努めてまいりたいと、かように考えております。
○谷合正明君 ありがとうございます。
先ほど来、局長とやり取りをさせていただきましたので、また大臣と是非質疑させていただきたいと思っております。
我が国の航空機産業振興策は、当初、国産機開発、この挑戦があったと。この挑戦を経て国際共同開発へとかじを切ってきたわけであります。政府は、航空機工業振興法を一九八六年、昭和六十一年に改正いたしまして、国際共同開発を促進するための機関として、航空機国際共同開発促進基金というものを設置してまいりました。この基金を通じて国際共同開発に対する助成の業務を行って、その結果ボーイング777や787の共同開発やV2500エンジンの共同開発に参加するなどの一定の成果を上げてきたと私の方も認識をしております。
冒頭、私の方から申し上げましたけれども、ただ、機体やエンジンの方は生産が伸びている一方で、装備品がまだまだ割合が、シェアが低いものですから、この装備品も付加価値の高いものがございます。是非、この機体、エンジンのみならず、装備品に関しても積極的に育成をしていくべきではないかと考えるわけでありますが、大臣の見解を伺いたいと思います。
○国務大臣(茂木敏充君) まさにおっしゃるとおりだと思っております。電源システムを始めとします装備品、飛行機全体でいいますと付加価値の三割から五割を占めると、このようにも言われておりまして、この装備品産業の育成、強化、日本にとって極めて重要だと、そのように考えております。
今どうなっているかといいますと、電子部品であったりとかセンサーであったりとかギア技術、そういう要素技術を日本のメーカーは持っているわけであります。その部品を結局は装備品を作っているところに納入するという形でありまして、より大きなものは海外がそれで作るという形に結果的にはなっているということでありまして、今後、これを更に推し進めるといいますか、によりまして、より大きな単位での構成品としての装備品の開発、これを強化していくことが必要である、このように考えております。
例えば、飛行機、着陸するときの脚装置の研究開発であったりとか、今委員の方からも御指摘をいただきました航空機国際共同開発促進基金を通じました電源装置の国際共同開発支援、こういったことをしっかりと行うことによりまして、装備品産業の育成ということに取り組んでまいりたいと考えております。
○谷合正明君 多少時間が残っておりますので、改めてこの航空機産業の全体の育成ということで、今回、産業競争力強化法を審議しているわけでありますが、先ほど来の議論で、国内サプライチェーンの構築であるとか、データベースの構築であるとか、認証取得支援、あるいはレアメタルのリサイクル体制、装備品の育成といった議論のやり取りを踏まえまして、改めて、大臣が中長期的な視点でこの日本の航空機産業をどのように持っていきたいのかと。
と申しますのも、なかなかすぐには受注できないとか、すぐには、何ですか、利益を上げる、できないとか、航空機産業特有の特徴があるとは思うんですね。やはりこれ、中長期的な視点で経済産業省あるいは国を挙げて取り組んでいかなければならないんだと思っておりますが、改めて、今回の審議しているこの法案とも関連しまして、日本の一つのこれからの柱でもありますこの航空機産業をどのように育成していきたいのか、最後、御決意をお聞かせいただきたいと思います。
○国務大臣(茂木敏充君) 冒頭申し上げましたが、この航空機、部品点数が三百万点と。これを様々な要素技術から組み上げて一つの製品にしていくということでありまして、国際的に強い航空機メーカー、何が一番勝負かといいますと、基本コンセプトを固めてから実際に実機を造るまでの期間をいかに短くするかと、これで実際のところは決まってきます、航空機というものは。そこの中にどう日本のサプライチェーンであったりとか装備品を組み入れていくかと。まさにこれが国際競争になってくると思っております。
同時に、やはり完成機を造るということも夢であり、またそれが大きな産業にもつながっていくと、このように考えております。
○谷合正明君 ありがとうございます。
特定の分野を取り上げてまいりましたけれども、この産業競争力強化法がしっかりワークするのかどうかというのは本当に現場に行けば一目瞭然でありまして、総論だけでなくて各分野で具体的な成果を上げられるよう、そういう法律となることを、しっかりそういう制度設計をしていただきたいということを申し上げたいと思います。
また、このエアロフォージにつきましても、是非、大臣お忙しいとは思いますが、もし時間可能でありましたら視察もしていただきたいと思いますし、政務官は恐らく香川から瀬戸大橋を渡ってすぐでございますので、是非視察もお願いしたいというふうに思っております。
そのことを申し上げまして、質問を終わりたいと思います。以上です。