○谷合正明君 公明党の谷合正明です。
まず冒頭に、本日は、中島参考人、また西村参考人、両参考人におかれましては、非常に示唆に富む御意見を賜りまして、心からお礼を申し上げます。私に与えられた時間は二十分でございますので、また端的に質問をさせていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
まず、中島参考人、西村参考人、両人にお伺いいたしたいと思います。
まず、今、政治主導によります幹部職員人事の仕組みが導入されようとしておりますけれども、そもそも官僚内閣制からの脱却を図ろうとしているということであります。
その官僚内閣制がなぜ問題になるかという点の、まず国家公務員制度改革のこの本質というかそもそも論からだと思うんですけれども、まず確認させていただきたいのは、官僚内閣制がなぜ問題になるかといえば、それが主権者としての国民全体に奉仕する公務員により民主的で能率的な公務運営を実現するために大変な障害になっているからであると、まずこの出発点が、認識が何よりも重要になると思っておりますが、この点についてまずどう考えていらっしゃるのかという点。
引き続きまして、その官僚内閣制を生み出している原因は幾つかあると思うんですけれども、一つの本質的な理由としては、原因としてはキャリアシステムであろうと思っております。このキャリアシステムについて、例えば、これはもう我が国にしかない独自の人事管理であるとも指摘されております。
このキャリアシステムというのは、確認させていただくと、やっぱり採用時の一回限りの試験でその先がすべて決まってしまうという話と、もう一つは、同期がほぼ同時期に昇進していくという点、これが、さらに三点目には法的根拠のない人事慣行であるという、そういうところに大きな問題があろうかと思っております。
このキャリアシステムについて、例えば役所に民間から出向に来た方に話を聞いてみても、例えばⅠ種試験、Ⅱ種試験、今ありますけれども、Ⅱ種で採用されて働いている方にも非常に優秀な方はたくさんいる。一方で、Ⅰ種で採用されたとしても、必ずしも将来その職責に見合う能力があるかというとそうでもないと、いろんな現象が当然あると。これは一種のカースト制度じゃないかというふうに、民間から入ってきた人は特にそういうふうに指摘されているわけでありますけれども。
私は、天下りだとか省庁の割拠主義だとか、またそれをなくすための幹部職員人事の一元化、事務次官職の廃止等、あらゆる公務員制度の関係する問題が実はこのキャリアシステムに根っこから通じてきているのではないかなと思っております。参議院では、実はこのキャリアシステムの廃止については以前附帯決議まで付いているぐらいでありまして、そこで繰り返しますが、主権者としての国民全体に奉仕する公務員により民主的で能率的な公務運営を実現するためにはこのキャリアシステムの根本的廃罷が不可欠であると考えますけれども、この点について御意見を伺いたいと思います。
ですから、最初まずこの官僚内閣制の問題の本質についてという点と、さらにキャリアシステムの廃止について併せてお答えしていただければと思います。中島参考人の方から、じゃよろしくお願いします。
○参考人(中島忠能君) 官僚内閣制という言葉、恐らくジャーナリズムが作り出した言葉だと思いますけれども、内容は何かということなんですけれども、本来、選挙で選ばれた方が選挙民に対して責任を持って政策の企画立案をすべきだ、政策の決定をすべきだ、それでこそ責任が取れる民主政治だと、こういうような考え方が根底にありまして、そういう主権者に対する責任を取ることが、法的にそういうシステムができていない官僚が政策の決定過程で前に出てきて正面の正座に座るというのはどういうことだ、間違っているじゃないか、民主的な統治システムの中ではもってのほかだと、こういうことで官僚内閣制というのが批判されるということだと思います。
それで、官僚内閣制というものをなくするためにはどうするんだという話が出てくるわけですけれども、これは官僚自身も自分の分をわきまえて仕事をしなきゃならないということなんですけれども、政治の方も、政治家の皆さん方も、少なくとも政策についての価値判断の基準というものをしっかり身に付けていただいて、官僚に対して指示をなさる、あるいは官僚が案を持ってきたときに政治家の皆さん方がお持ちの価値判断基準に合っていない場合には拒否すると、やり直せというふうに命ずるという、そういうようなことが政治家の皆さん方にも必要になってくるだろうということで、官僚の方にも政治家の方にもそれぞれ考えていただくべき問題があるんだというふうに私自身は見ておるんですけれども、その細かいというか細部の話はさておきまして、官僚内閣制というのはとにかく民主政治の原理原則からいってこれはもうなくさなきゃならないと、改めなきゃならない大原則だというふうに思います。
そして、先生が次いでおっしゃいましたキャリアシステムの話ですけれども、キャリアシステムというものが最初に問題になったきっかけというのは、今までお二人の方がお話しになりましたように、一回限りの試験で役人の勤務期間中のすべてが左右されるというのはおかしいじゃないかと。そのおかしいことをいつまでも続けておると、そのラインに乗っていない人たちは段々やる気を失っていって組織としての仕事力というものが低下していくじゃないか、そこに問題があるじゃないかと、こういうことでキャリアシステムというのが問題にされ出したんですけれども。
しかし、元々は、今委員がおっしゃいますように、このキャリアシステムというのは、根底においては、やっぱりそういうものが存続する限りにおいては天下り問題というものにも大きな影響を与えるし、そして特権性というような意識も芽生えてきて官僚内閣制につながっていくじゃないかという御指摘はそのとおりだと思います。しかし、官僚内閣制とかあるいは割拠制とか、そういうようなものは、それに対してそれぞれ対策を講じていかなきゃならないということも事実ですから、いろいろな問題が根底でつながっているということはよく分かりますけれども、それぞれ特別な対策が必要だということも忘れずに講じていかなきゃならないなというふうに思います。
ただ、最初に委員がおっしゃいましたように、官僚内閣制という言葉がもう使われなくなるように、少なくとも幹部公務員の諸君はきちんとした自分たちの役割というものを認識して、少なくとも政策決定面においては自分たちは補佐役なんだというその立場というものをわきまえながら仕事をする、発言をするということが必要だというふうに思います。
○参考人(西村美香君) まず、官僚内閣制についてですけれども、この言葉については、一面では本質を表しているとは思いますけれども、すべてではないというふうに思っています。
私は、一番問題なのは、政治家と官僚の役割分担が、長らく自民党が政権に着いてきた中で、長期政権の中で入り乱れてしまった、本来官僚がやるべき仕事のところに政治家が口を挟むようになり、本来政治家がやる仕事なのに官僚が口を挟むようになったと、こういう点が問題だと思っていますので、官僚内閣制だけでなく、ある意味、政治官僚制というか、どちらも問題があったというふうに思っています。
それから二つ目のキャリアシステムに関してですけれども、私はキャリアシステムその他の問題も含めて戦後の公務員制度の大問題に起因しているというふうに思います。その大問題というのは、日本の公務員制度は、戦後、制度と運用が結構乖離してしまっていたということです。これはどうして生じてしまったかというと、公務員法が作られたときには職階制を基に任用や給与をつくっていくということだったわけですけれども、御存じのように職階制というのは実現しておりません。制度のところがあやふやなまま運用をしていったために戦前からの様々な慣行が残ってしまったんだと思っています。
キャリアシステムに関しても、よその国でも実は幹部職員を早くから選抜して養成するということはやっておりますけれども、日本のキャリアシステムの場合、そうではなく何か不合理な慣行に基づいていると思われるのは、こうした戦前からの慣行を断ち切ることができなかったところに問題があるのではないかと思っています。
ですから、解決策としては、もう一度公務員制度を土台からつくり直す、キャリア制度だけを着目するのではなく、まずは、職階制も廃止されてしまいましたけれども、その代わりになる職務の分類などをきちっと行って、職務の分類、能力の分類などを行って、これを任用や給与の基礎とすると、そういうところから積み上げて、それを元に幹部候補職員をどうするかというような仕組みをつくっていくべきではないかと思います。
そうすれば、慣行にとらわれずに優秀な人材を内部から登用する、あるいは場合によっては、基準が明確であれば外部から登用するということも可能になるのではないかと思います。
○谷合正明君 特に官僚内閣制という言葉を使ってしまいましたけれども、これは別に何も官僚だけの問題ではなくて政治の問題でもあるという指摘というのは、本当にこちら側も真剣に、真摯に受け止めなきゃいけない話だということを改めて認識をさせていただきました。
それでは次に、公務の中立公正の確保についてお尋ねをしたいと思います。
やはり、もう一度話に戻りますが、幹部職員人事の仕組みですね、政治主導による幹部職員人事の仕組みを導入する場合、公務の中立公正、政治的中立の確保には配慮しなければならないんだと思っております。これを憲法十四条の法の下の平等の徹底が求められる現場職員の執行に対してまでこの政治の影響が及んでいくと、全体の奉仕者であることが確保できず、結果的に行政が著しくゆがむ結果となるというふうに、そういうふうに思っているわけであります。西村参考人は資格任用と政治任用のお話を比較されていろいろなお話を展開していただきましたけれども、まず、この政治主導による人事が行われる幹部職員の範囲、この幹部職員の範囲を限定し、それ以外の職員について適用される法制と別建てにするなど、公務の中立公正を厳格に確保するための法的仕組みを整備することが重要ではないかなと思っておりますが、この点について中島参考人、西村参考人にお伺いしたいと思います。
あわせて、人事行政の公正の観点ということでは、この人事院の内閣人事局への権限移管の問題も含めて、両参考人に御意見をお伺いしたいと思います。よろしくお願いいたします。
○参考人(中島忠能君) 中立公正性、公務の中立公正性というんですか、公務員の中立公正性、公務執行の公正性の確保というのは戦後の公務員制度の基本的な思想なんですね。これは公務員制度の改革の議論をするときには、しっかりこのことを議論して取り組んでいく必要があるだろうというふうに思います。ここ数年公務員制度の改革の議論が行われておりますけれども、この点についてのしっかりした議論が行われていないというふうに私は見ております。これは非常に憂うべきことだと思いますね。おっしゃるように、憲法の十四条で、全体の奉仕者だというふうに、公務員は全体の奉仕者だと、こういうふうになっておるわけですが、全体の奉仕者というのは、国民が自民党の支持者であっても民主党の支持者であっても共産党の支持者であっても、みんなとにかく公平に公務の執行の恩恵を受けなきゃならないという思想でございますから、その行政執行をする公務員というのは政治的に中立でなきゃならないと、ここから来ておるわけですが。
だから、公務員を採用するときにも、私が最初に申し上げましたように、情実人事とかあるいはスポイルズシステムというものが入ってくるということは、結果として公務の公正執行というもの、公務員の中立性というものを損なうことになるから、その点はよく気を付けていただきたいなということを申し上げたんですけれども、採用をするときにもそういうような色の付いた人間を採用しなくて、専ら能力で採用するようにしましょう、育てるときにも、採用した人間を育てるときにも公正中立な立場で仕事ができるような人間を育てましょうと、こういうことに実はなっておりまして、そういう仕事というのは内閣から独立した機関に与えようじゃないかというのが今の公務員制度の基本的な仕組みでございますから、これは憲法でいう全体の奉仕者性というものを行政の中で貫いていくためには、このことはきっちり議論して守っていただかなければ、戦後の民主的な公務員制度の土台が崩れてしまうというふうに私は危機感を持っております。したがって、そこはいい御指摘をいただいたなというふうに思います。
そこで、その公務の公正な執行というものを確保するときに心配なのはというか問題なのは、幹部公務員の人事というものについてどういう仕組みをしたらいいのかということを御提起なさったんだと今聞いておりました。
私の聞き方が間違っておればまた訂正していただきたいんですけれども、幹部公務員の人事の仕組みをつくるときに、幹部公務員というものを二つに分けて、政治家がイニシアチブを取って任用する公務員の範囲とそうでない範囲というものを分けたらどうだと、こういうようなお話だったというふうに思うんですけれども、私は、それはかなり難しい話だなと。むしろアメリカ方式の方がいいんじゃないかというふうに思いますね。
アメリカはどういうことをやっているかというと、政治が主導権を持って幹部公務員の任用に携わったときには、そういうことで入ってきた方にはこういう仕事を担当させないという制度をやっている。例えて言いますと、捜査に関することとか税金に関することとか、あるいは契約に関することとか、そういうような仕事は専ら職業公務員にさせるべきだということで、政治が主導権を持って任用した人にはそういうことはさせないというような方式を取っておるようです。したがいまして、幹部公務員の人事のポストの半分ぐらいはもうとにかくそういうことで専ら職業公務員のポストだというふうになっておるようですけれども、むしろそちらの、どのポストに就けないという方がやり方としていいのかなというふうに思います。
私が作りましたペーパーの中で、お渡しした四ページで、下から十行目辺りに対象外ポストというふうに②のところに書いておりますけれども、対象外ポストというのは、政治任用で入ってきた方たちが任用できない、就けない、就くことができないポストというものもはっきりさせておいた方がいいと。捜査に関するポストとか税に関するポストというと、みんな、ああ、それはそうだよというふうにおっしゃいますから余り問題ないんですけど、それ以外にもやっぱりあると思うんですね。だから、そういうのをはっきりさせておいた方がいいだろうというのが私の意見です。
それから、人事行政の公正性の確保というのは、今おっしゃいましたように、幹部公務員の人事について、例えて言いますと、今の仕組みというのは、幹部公務員の候補者の名簿を官房長官がお作りになって、そのお作りになった幹部候補職員の候補者名簿から主任大臣が任命するということになっておるんですけれども、イギリスなんかは、その名簿を作るのをとにかく外部の委員会に作らせておるというような仕組みで、かなりそこの任命までの過程において余りとにかく一方に偏った考え方だけで幹部公務員が選任されないような工夫を凝らしておるというようなことで、もう少しいろいろな国のやり方の中で参考になるものもあるから、そこらを見て御検討いただいた方がいいんじゃないかというのが私の意見でございます。
○参考人(西村美香君) 幹部職員とそれ以下の職員を別建てにしてはどうかというお話ですけれども、確かに局長以上の幹部職員については人事上何らかの特別な仕組み、配慮があってもいいかなというふうには感じています。それをどんな仕組みにするのかという方法については、非常に大ざっぱではありますけれども、先ほど来から申し上げております、政治任用にするか資格任用にするか、それからもう一つ、開放型にするか閉鎖型にするかという選択肢があると思います。
一橋の田中秀明先生はこういった観点から四つに分類をされているんですけれども、政治任用でかつ閉鎖型というのがフランスやドイツで、元々官僚として資格任用で入ってきた人たちがそのまま政治任用されるという仕組みです。それから、資格任用だけれども開放型になっている国として有名なのがオーストラリアやニュージーランドなんですけれども、特にオーストラリアなどについては資格任用でありながら非常に政治化が進んでいるとも言われています。
政治任用についても開放型、閉鎖型、それから資格任用についても開放型、閉鎖型、合計四つぐらいのパターンがあるわけですけれども、それのどれにするかについては、先ほど来から申し上げておりますように、政策決定において政治と行政をどのような協力関係に立たせるかという点から、どれが日本に望ましいかというのを選んでいくべきだと思います。これ、せんじ詰めれば日本の統治構造にとってどのタイプが望ましいかというところまで行き着く非常に難しい問題であるとは思います。
それから、政治的中立性については、もう一言申し上げますと、政治任用の場合には現政権への忠誠というのが求められますので、余り中立ということではなく、どちらかというと公正さぐらいしか求められないと思いますが、資格任用に関しては、これも実は政治性が全くないというわけではなくて、学者の間ではどの政権にも忠誠心を持って仕えるということが中立性、公正性というふうに考えられています。
そして、内閣人事局と人事院の役割、どのようにしたらいいかということですけれども、私は、政治任用というふうにするならば、その人事権については内閣人事局がいろいろなことを決めてもいいのではないかと思っています。ただ、倫理問題とかそういうものについては、これ、資格任用であれ政治任用であれ同一である方が望ましい、そういう規則もあると思いますので、この点については人事院のようなところが関与することはあるかなというふうには思いますが、基本的には内閣人事局の権限になるかと思います。
一方、資格任用のままにとどめるということになりますと、これはやはり政権に左右されないということが非常に重要になってきますので、人事院が様々な規則を定めて、それが守られているかどうかを保障していくということが必要になると思います。よその国でも、幹部職員、資格任用のままに置いている場合には、やはり中立的な行政機関というところが人事の運用に当たって役割を果たしております。
以上です。
○谷合正明君 ありがとうございました。