斬新な視点から日本の雇用に警鐘を鳴らす人事コンサルタント
城繁幸さん
10月31日付けの公明新聞4面に掲載されている「ヤングホームページ」の記事をアップしました。
以下、公明新聞の記事を転載します。
(東京事務所)
『人件費が足りないために作られた非正規雇用』
『成果主義は35歳未満を働き損にしている』
『「人の価値は年齢で決まる」価値観は白紙に』
『適正な労働に対する「職務給」導入すべき』
バブル崩壊後の1995年から2005年の「就職氷河期」に社会に出た、25~35歳の約2000万人は、「ロストジェネレーション」とか「貧乏くじ世代」などと呼ばれ、フリーターや派遣社員などの非正規雇用者が多く、現代の大きな社会問題となっています。そこで今回の「青春ヒューマングラフィティ」はいつもとは趣向を変え、公明党の非正規雇用・底上げ戦略本部主催の講演会で講師を務めた、人事コンサルティング「Joe’s Labo」代表で、「若者はなぜ3年で辞めるのか?」などの著書で著名な城繁幸氏の示唆に富んだ講演内容を紹介します。
城 繁幸(じょう・しげゆき)1973年、山口県生まれ。東大法学部卒業後、富士通入社。人事部門で、新人事制度導入直後からその運営に携わる。2004年、同社退社後、出版した「内側から見た富士通『成果主義』の崩壊」(光文社)がベストセラーに。翌年、「日本型『成果主義』の可能性」(東洋経済新報社)では、日本企業に合った成果主義の導入を取り上げ、高い評価を得る。さらに「若者はなぜ3年で辞めるのか?」(光文社)で、若者世代を覆う閉塞感の正体を探りあて、大ベストセラーとなる。人事制度、雇用問題など、若者の視点でメディアに発信し続けている。
「格差社会と年功序列」というテーマで、雇用における格差について話をしたいと思います。
日本の雇用の特徴は年功序列制度であり、「職能給」という制度です。この制度を取っているのは世界的に日本だけで、長く働くほど能力が上がるというのが前提です。このため、事実上の「年齢給」で、年齢とともに賃金が上昇し、原則、下がりません。
例えば、部長クラスがプロジェクトを失敗してもクビになりません。これが年功序列の本質であり、「上がった者勝ちの世界」です。45歳以上の定期昇給世代ほど、非常に有利です。そのような組織が人件費を抑える場合、若年層の賃金を上がらないようにする力が働きます。実際、1996年当たりから、ほとんどの企業で定期昇給が見送られ、正式に廃止されている企業も多いのです。30歳過ぎまでは多少上がりますが、そこから先は課長、部長と序列が上がらない限り上がりません。
正社員になれた人間はまだいいのです。問題は正社員になれなかった人たちです。90年代後半から若手の昇級を抑えましたが、それでも人件費が足りないために新しいグループをつくった。それが非正規雇用です。特に99年の労働者派遣法の改正から一気に広まりました。
この賃金制度の特徴は「職務給」で、仕事に対して給料が付いており、年齢給とか勤続年数、学歴は一切不問です。典型的なケースはコンビニのアルバイト。時給800円。それはコンビニのレジという仕事に対して給料が付いている。何歳の人がやろうと、何年務めようと基本的に変わりません。これは派遣社員も同じです。この職務給が世界標準です。ですから日本の労働市場というのは、二つの賃金体系が併存しているのです。
もう一つ、日本では90年代半ばから成果主義が導入され、今年春にはほぼ100%が成果型にシフトしていると思います。それだけ日本に成果主義が普及すれば、若者に多くの夢や抜擢の機会が増えると思うのに、なぜ、若者は3年で辞めるのかという質問をよく受けます。
それは現状の成果主義には非常に問題があり、実際、若い人ほど不利なのです。理由は、労働分配率(企業利益の働く人への分配率)が2000年前後、非常に危機的な数字まで上がり、経営者がこれ以上、賃金が上がることは抑えたいというニーズを持ったからです。ポストについても同じです。
ではどうするか。これからの人に対して昇格、昇級、賞与のハードルを上げる。これが今の成果主義です。結果として35歳未満は、それまでの世代と比べて非常に働き損です。私の個人的な試算ですが、全産業平均の生涯賃金で、団塊世代と団塊ジュニア世代の間で3割くらいの開きがあります。業種によっては半分になります。これが若者が3年で辞める最大の理由です。
次に「格差とは何か」をもう少し、詳しく見ていきたいと思います。
賃金カーブのモデル【図】ですが、縦軸が賃金で、横軸が雇用期間です。まず、50歳以上の定期昇給を15年以上経験した人の賃金モデルは、こんな感じで推移するという概念です。それに対して35歳以下の正社員は、定期昇給が無いため、序列が上がらなければ30代半ばでピークアウト(頂点に達する)してしまいます。この二つが同じ正社員の中で併存している。ところがもう一つ、非正規雇用労働者という3番目のヒエラルキー(上下関係)が存在します。
彼らの賃金は、職務給ですから年齢とか勤続年数は基本的に関係ありません。横ばいです。何より雇用の保障がありません。ですから、日本の雇用労働者は大きく三つのヒエラルキーに分類されます。特にこの正社員と非正社員の間には非常に大きな差があります。
この両者の違いをもう少し見ていきたい。まず正社員は基本的に職能給です。つまり給料は年齢とともにある程度まで上がり、何より下がりません。ところが非正社員は職務給で事情によってはいくらでも下がります。そして正社員は不利益変更の制限がある上、60歳までは雇用の維持を努力してくれます。しかし、非正社員には何の保障もありません。
また、65歳以降の生活を見ると、正社員の場合は厚生年金、国民年金に加え、退職金が支給されています。さらに正社員は資産形成の機会があり、多くの人が持ち家や、一定の資産を持っています。年金についても15万円くらいあります。ところが、非正社員の場合は国民年金の約6万円しかない。しかも持ち家や資産形成もほとんどありません。
では、雇用の格差を生み、格差を固定化する正体とは何か。年功序列の既得権層を守るために非正規雇用を新しくつくった。年齢給があるから、現に、フリーターや中高年、女性の雇用が進まない。ですから「年功序列が犯人」「人の価値は年齢で決まるという価値観が原因」なのです。一旦、年功序列は白紙にすべきです。
さらに改革に必要なことは労働条件の不利益変更に関するルールの策定であり、場合によっては解雇も認めることです。非正規労働者の待遇アップはもちろん必要ですが、正社員の側も下げられるルールを作ることです。規制を外すことによって、両者の間に“適正な労働相場”が形成される。それが職務給です。労働者が適正な労働に対する対価を受け取れるシステムであり、極めて合理的です。
(2007/10/31付 公明新聞より転載)