○谷合正明君 公明党の谷合正明です。
興梠先生、また唐先生、本日は本当にありがとうございます。
まず初めに、興梠先生の方に質問をさせていただきます。
環境問題について質問をさせていただきます。いわゆる中国の外交政策の中に環境問題の対処というのはどのように位置付けられておるのかということなんですが、先ほどエネルギー問題が話に上がりましたが、エネルギーと環境問題も、これは同時に考えていかなければならない問題だと思っております。
特に、環境問題なんですけれども、例えば水ですね。かつて、世界銀行だったと思いますけれども副総裁の方が、これからは資源をめぐる争いから水をめぐる争いになるだろうと言われておりました。実際、中国における水、これも一人当たりの水の資源量というのは、実はイランだとかスーダンとか、そういった若干砂漠をイメージするような国とほぼ同じぐらいなわけでありまして、非常にこれからは重要な観点ではなかろうかと。
今後、日本としては、やはり日中の間におきまして、環境パートナーシップといいましょうか、これまでのODAの関係というよりはパートナーシップの関係を築いていくべきではないかと思っております。
例えば、具体的に何をするかといいますと、一つ目には環境汚染を禁止するだとか、あるいはその二つ目には省エネ循環型社会への転換を図るだとか、三つ目には環境教育というものをしっかりと進めていくということでございます。中国は国境を接している国がもう十か国以上ありますので、こういった取組というのはアジアに広がっていきますし、またこれが世界に広がっていくものだと思っております。
私自身はこういう、日本としてはこういう環境パートナーシップというものをやっていかなければならないと思っていますが、この点について興梠先生の見解を伺いたいのと、果たして中国政府が環境についてどれだけ意識というか、危機意識があるのかということをまずお聞きしたいと思います。
次に、唐先生の方ですが、中国の政治経済状況を最初に説明していただきましたが、私も中国の格差問題というのには大変関心があります。特に農業、農村、農民という三つの農ですね、この問題があるのではないかと思っております。
先ほども若干関連する質問がございました。この中国の格差というのはもう日本の格差問題以上の格差でございまして、内政問題と言われればそうかもしれませんが、これは、でも、よく見ますと、例えば反日デモとリンクしてしまった問題でもございますし、日本としてもやはり中国のこの地域格差であるとか所得格差であるとか、そういった問題についてしっかり見ておかなきゃいけないと思っております。
特に、中国もWTOに加盟して市場経済を導入していく中で、農業、農民、そして農村が受ける影響というのは非常に今計り知れないものがあると思っております。また、農業セクターだけじゃなくて、行政組織自体も市場経済に即した組織改革というものがあるんじゃないかと思っておるんですが、先ほども唐先生は、求心力を持って市場経済化をしていくんだと、それが中国をうまくハンドリングしていくかぎだとおっしゃったんですが、果たして本当にそういったことが可能なのかどうかというのが私の非常に素朴な関心でございます。唐先生の率直な御意見をお伺いしたいと思います。
○参考人(興梠一郎君) どうもありがとうございます。
環境問題というのは、中国では実は政治問題ですね、政治構造と関係していると。まず、日本と同じ土台で考えるとどんどんずれていってしまうというのがあるんですね、日本では余りそういう議論がされてないんですが。
水と空気、あと砂漠化とか川の汚染とか、日本でも時折メディアで報道されます。例えば、ロシアとの問題では松花江ですね、中国東北部、あそこで化工工場がたしかトラブルになって、それが垂れ流しになって、ロシアと一時緊張したことがありました。民衆が水を買い付けに行ったりとかして大変な問題になりました。ただ、中国は逆に、それ、当局は、ロシアと大きな問題にならなかった、ロシアとのパートナーシップの結果だとか言って、外交的な関係がいいからだみたいに一応持ち上げたこともあるんですね。
〔会長退席、理事三浦一水君着席〕
しかし、国境を越えて、黄砂の問題もそうですけど、中国の平和的台頭にとって非常に大きなマイナスイメージになっていることは確かなんですね。一つは、国境を越えたそういった汚染の問題、もう一つは、国境を越えて人間が移動するという問題もそうです。ロシアの例えば極東地域、あとは最近のヨーロッパもそうですし、アフリカなんかも中国人の労働者がどんどん出ていって、現地でいわゆる黄禍論みたいなものがはびこっていると。だから、人間の移動というものは、ある意味で考えたら、経済成長のパターンの結果と言えると思うんです。
政治的な問題というか、行政システムの問題として日本からいまいち見えてこない問題が一つあるんですね。それはほとんど、例えば川の汚染とか、特に川の汚染が最近深刻なんですけれども、中国の国内のメディアで相当報道してるんですね。
特に胡錦濤時代になってから、これ調和社会の一つのポイントだということで、環境部門も実は余り権力がなかったんですけれども、これから強化しようなんという動きになっているんですね。
どういう仕組みになっているかといいますと、例えば地方にも環境保護の主管部門というのはあるんですけれども、ほとんどが経済担当の部門よりもやっぱりちょっと力がないんですね。やはり、今までGDP、経済成長至上主義というので突っ走ってきましたから、それに対する環境の負荷というのはほとんど考えてこなくてよかったと。ですから、例えば抗議活動なんというのも大きい意味で考えると環境問題なんですよ。つまり、農民の意識、農民の生活を全く無視して都市に重点的に投資して、病院も都市に集中し、医療も全部都市、もう農村はほとんど手付かずの状態だったと。自分の国の中に、いわゆる発展途上国を残したまま発展してきたわけでしょう。共産党というのは、そのGDPをどんどん伸ばしたおかげで皆が前よりは良かったと、まあ毛沢東の時代よりは良かったという、そういう安心のおかげで何とかここまで突っ走ってきたと。ところが、最近は出稼ぎ労働者も黙っちゃいないし、おれたちは同じ国民なのに何でこんな差別されているんだとか言い始めましたし、環境問題も実はそういった大きな経済成長パターンの限界という問題としてとらえるということです。
ですから、地方ではそういった経済をとにかく発展させていれば、中国の地方指導者は出世するんですよね。それから、GDPが八%行くぞと言ったら、一〇とか一五とか言えば、これはやっぱり目立つわけですよ。もう巨大な営業会社みたいになっていまして、そもそも中央政府が今年は何%だとか言うこと自体がそれに火を付けるところがあると。したがって、外資をどんどん導入して、土地ももうただ同然で切り売りして、公害を垂れ流そうが全部隠ぺいして、とにかく物を作れとやってきたわけですよ。ですから、そういった垂れ流しに大体かかわっているのは、例えば中小企業、特によく言われるのは香港とか台湾の企業ということを言われるんですね。日本は割と余りやり玉に上がらないんですけれども。しかし、これは地方の指導者からすると有り難いんですよね。雇用を確保できると、GDPも確保できると。
じゃ、中国は環境を重視した結果どうなるんだと。じゃ、外資系企業はどうするんだと。急にそういった高度な技術を持った外資系企業が田舎に来てくれるのかという問題になるんです。したがって、これは中国の成長パターンの代価でもあって、現状の限界でもあるわけですね。ですから、これからどうするかという問題も真剣に議論されていて、当然エネルギー効率を良くするとか胡錦濤政権は言っていますし、日本からも絶対協力してほしいことの一つにも環境問題挙がっていると。環境を日中の懸け橋にしようとかよく言うわけですよ。ほかのことじゃ問題多過ぎるんで、何か一個、お互いにやったらいいんじゃないか。だから、砂漠の緑化なんかも、よく日本人が植えているところですね、写真で、雑誌なんかで大きく出すんですよ。そうすると、日本人も悪くないというイメージになるじゃないですか。だから、環境問題というのは一つの、協力パターンの一つで、割かしやりやすいところだと。で、これは民衆の利益にも直接かかわっていると。
だから、これからも恐らく日本には相当それを期待しているでしょうし、日本もそれはやっていくのはやっぱり効果があるということになるんですが、問題は、今言いましたような行政機構の独特なそういった問題とか、中央の指導者が知らないところで、例えばSARSなんかも最初は局部的なところからどんどん広がっていったところもありますし、エイズの問題もこれ広い意味で、環境問題でいえば、ほっておけばこれ一千万人に行っちゃうとかいう話もあるわけですよ。その経済的な代価は非常に大きいんですね。ほとんどが、この中国の中央政府と地方政府と全く一つになっているわけじゃなくて、これよく言われるのは、天は高く、皇帝は遠いという言葉が中国にあるんですけれども、天が高いように皇帝はずうっと向こうに、中央政府は向こうにいて、こっちのことはほとんど分かんないというニュアンスなんですよ。
ですから、そういったコミュニケーションの問題とかあの国の大きさとか、そういったことを考えますと、中央指導者、胡錦濤さんの知らないところで何か起きていることというのは非常に大きくて、後手後手に回っちゃって、後からやってもなかなか、もうぱあっと広がっちゃっていたりとかというのがありますんで、今後、日本ができるところは当然ありますけれども、中国がそういった行政システム全体の問題として解決していかないと、長期的に見てなかなか容易ではないと言えると思います。
以上です。どうもありがとうございました。
○参考人(唐亮君) ありがとうございます。
谷合先生から中国の農村問題はどうなるかということを聞かされましたが、私は、谷合先生の問題提起は、ある意味では中国のこれからどうなるかが、中国の台頭が果たして可能かどうか、それを決めるぐらいの大きな問題だと思っています。
というのは、さっき、私、理解している中国の近代化というのは、実は経済の面から考える場合は、どうやって農業国を産業国に変えていくかというのが経済の近代化なんですよね。それを考えると、実はこの二十数年間の中国の経済発展、実は農民の労働力をいかに産業労働者あるいはサービスの産業に移転させていくか、それから農村地域の産業開発あるいは都市化をどうやって進めていくかと、そのような問題だと思います。その成果もそこではっきりしているし、問題が依然として非常に大きいと、これもはっきりしているんですよね。
今の中国の胡錦濤政権は、さっき私が申し上げましたように、農民を支援を強化していくという方針が打ち出されていると。これは分配制度の改革に関連するものなんですが、しかしやっぱり限界が大きいというのはまず申し上げなければならないと。
私、たまに日本のことを比較してこのような問題の深刻さを説明しているんですが、日本の場合は例えば、正確なデータ、私、今覚えてませんが、二、三%は農民だと、サラリーマンは九五%以上だと。そうすると、日本は九十五人のサラリーマンの力をもって二、三%の農民を支援すると。そういう意味では、農業生産の付加価値が低いにもかかわらず、日本の農民はそれなりの豊かな生活を送ることができるようになっている状況なんですよね。
その問題を、そのような視点から今の中国を見る場合は、実は五割以上まだ農民なんですよね。四割ちょっとくらいで、今、第二次産業あるいは第三次産業の労働者、職員なんですよね。そうすると、四人が五人以上支援しなくちゃいけないというのは、実は支援の能力に大きな限界があると思います。
〔理事三浦一水君退席、会長着席〕
だから、そういう意味では、これからの中国の農民、農村問題をどう解決していくかは、大きなその考え方、整理していく場合は、分配をより、農民を支援すると同時にパイをどう大きくするか。そういう意味では、産業化、経済の近代化が、高度成長というのが絶対にその必要不可欠な条件ではないかと思うんですね。そこが、具体的な方針を少し簡単に述べると、やっぱり経済発展する中でどうやって農民の余剰労働力を沿海地域あるいは都市部に移転させていくかと。
もう一つは、皆さんがよく御存じのように、中国は四、五年、五、六年前から西部大開発、それから最近になって中部の開発にも力を入れていると。私、なぜこれを触れるかというと、実は中国の三つの大きな格差、特に一番目と二番目の地域格差は実は農村と都市の格差でもあるんです、重ねているんですよね。西部と中部は農村地域が中心になっているんで、だから経済が後れて貧しい人が多いわけですよね。
そういう点を考えると、だから解決方法というのは、一つは農村の余剰労働力を付加価値の高い第二、第三次産業に移転させることと、中部、西部の開発によってその地域の産業化と都市化を進めていくことと、それから、なおかつ、農民が多分たくさん残るから、その余力をもってその農民たちの生活基盤を支援していくことが重要ではないかと。その点に関しては、恐らくさっき私、申し上げました日本の経験が、実は相当の経験がかなり参考されるものではないかと思います。
抽象的になりますが、以上です。